契約を結ぶ前に「この資材は遅れるかもしれない」と相手へ伝える。2025年12月12日に施行された建設業法20条の2は、これを受注者側の義務にした。伝えたうえで実際に遅れが出れば、工期と請負代金の変更協議を注文者へ申し出られる(同条3項)。申出を受けた注文者は、根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応ずるよう努めなければならない(同条4項)。

通知は請負契約の話で、商社との建材の売買には直接かからない。ただし商社が出した記者発表や見積書は、工務店が注文者へ出す通知の裏づけになる。

通知が要る事象

対象は法律ではなく省令が決めている。建設業法施行規則13条の16は、注文者が通知する事象と、建設業者が通知する事象を分けて並べる。

通知する側 対象になる事象 根拠
注文者から建設業者へ 地盤の沈下、地下埋設物による土壌の汚染その他の地中の状態に起因する事象/騒音、振動その他の周辺の環境に配慮が必要な事象 法20条の2第1項、規則13条の16第1項
建設業者から注文者へ 主要な資機材の供給の不足もしくは遅延または資機材の価格の高騰/特定の建設工事の種類における労務の供給の不足または価格の高騰 法20条の2第2項、規則13条の16第2項

建設業者側の2つには限定が付く。規則13条の16第2項は「天災その他不可抗力により生じるもの」に絞っており、自社の段取り不足で調達が間に合わない話は入らない。

主要かどうかの目安は、国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン第8版(令和8年1月)が3つ挙げる。数量的または使用頻度的に大宗を占めるために欠くことができないこと、工事原価において大きな比重を占めること、数量や比重や使用頻度が少ないにもかかわらず工事の施工に大きな影響を及ぼすこと。3つ目があるので、金額の小さい部材でもそれが止まれば工程が止まるなら対象に入る。

同ガイドラインは範囲の外側も示している。契約締結の時点で未発生の天災その他の自然的事象は、発生の蓋然性を合理的に説明できる場合を除いて事前の予測が難しく、それによって生じる供給不足や価格高騰は通知が義務づけられる情報とは想定しがたい、としている。通知から事象の発生までには相当程度の期間があるものと解されるため、工期の比較的短い工事でおそれが発生することは一般には想定しにくい、とも書かれている。

通知の出し方

出す形は規則13条の17が決めている。見積書を作成するときは、情報を記載した書面を添付したうえで見積書を交付する。見積書を作成しないときは、情報を記載した書面だけを交付する。注文者から通知の方法について請求があったときは、その請求に従う。書面が電磁的記録で作られている場合は、電子情報処理組織を使う方法や電磁的記録媒体を交付する方法でもよい。

ガイドラインは、通知に添える「当該事象の状況の把握のため必要な情報」を根拠情報と呼び、通る資料と通らない資料を分けている。

根拠情報になる ならない
メディア記事 一の資材業者の口頭のみによる情報
資材業者の記者発表 相手が真偽を確認できない情報
公的主体や業界団体が作成・更新した一定の客観性を有する統計資料
下請業者や資材業者から提出された、過去の同種工事における見積書など価格の上昇がわかる資料

通知の書面に載せる項目は、事象の中身のほかに3つある。通知に係る資機材の種類、価格の基準日、根拠情報の情報源。逆に、通知のために新たな調査や資料収集をする必要はなく、把握している範囲で公表資料を示せば足りるとされている。通知は書面またはメールなどの電磁的方法で見積書の交付時などにあわせて行い、双方で保存しておくのが望ましい、というのがガイドラインの整理になる。

需給を示す公表資料

根拠情報の柱になるのは、毎月更新される国の調査2本。主要建設資材需給・価格動向調査は7資材13品目について需給、在庫、価格の判定を出す。建設労働需給調査は建設技能労働者の過不足を職種別と地域別に調べる。

直近の主要建設資材需給・価格動向調査(2026年7月1〜5日現在)では、7資材13品目の需給がすべて「均衡」、在庫もすべて「普通」だった。価格はアスファルト合材の新材と再生材、異形棒鋼、H形鋼、木材の型枠用合板の5品目が「やや上昇」。統計の側では、いま供給不足を主張する材料は乏しい。品目別の指数は建設資材13品目の需給が全国で「均衡」にまとめている。

メーカー個社の納期は各社の窓口が一次情報になる。LIXILはシステムキッチンの基準納期を照会できるツールを取引先向けに置いており、受注内容の集約や工事日程の変更で回答が変わる旨を注記している。品目をまたいだ納期と供給の動きは納期・在庫・廃番トラッカーで追っている。

工期のどこに調達期間を置くか

工期の側の考え方は、中央建設業審議会が決めた「工期に関する基準」(令和6年3月27日最終改定)にある。同基準は工期を準備、施工、後片付けの3段階に分け、準備段階では資材調達と人員確保に要する時間を考慮して工期を設定するとしている。

準備段階について同基準が挙げる時間は次のとおり。

項目 基準が挙げる中身
資材の調達に要する時間 コンクリートの試験練りに要する期間、盛土・埋戻材やその他資材の承認を得るための各種試験の条件整理から承認までの期間
資材の性質による時間 コンクリートは日平均気温によって養生期間が異なる
納入と搬入の時間 使用人の指揮命令下において運送事業者が物品納入に要する時間、オペレーターが建設機械を現場に搬入する時間。いずれも時間外労働規制の遵守が前提
特殊機械の制約 大型クレーン等は一般に使用期間の変更が難しく、変更を極力避ける必要がある

施工段階の記述にも、発注から現物が入るまでの期間が具体的に出てくる。躯体では鉄骨材の搬入と、鉄骨の発注から納入までの期間。仕上げでは工場加工生産資材の発注から搬入までの期間。設備では大型機器の製作や搬入に要する時間。外装を海外購買した場合は、天候による船便の遅れや現地の労務環境の変化で製作期間が延びる例も挙がっている。

同基準は、各工種の遅れが全体の遅れにつながらないよう、受発注者が常に工程管理のクリティカルパスを認識し、その上の作業の進捗を促進するよう進捗管理を行う必要がある、としている。調達期間をどこに積むかを決める前に、その資材がクリティカルパス上にあるかどうかが先に来る。

公共建築の側では、官庁営繕部の「公共建築工事における工期設定の基本的考え方」が、労務と資機材の調達や現場事務所の設置に要する期間を「準備期間」、施工終了後の自主検査や清掃に要する期間を「後片付け期間」と呼び、両方を工期に含めて事業の工程を組むこととしている。

見積に使える日数の下限

調達の見通しを立てる時間そのものにも下限がある。建設業法20条3項は、注文者が契約締結または入札までの間に建設業者の見積期間を設けなければならないと定め、日数は施行令5条の9が決めている。

工事一件の予定価格 見積期間
500万円未満 1日以上
500万円以上5000万円未満 10日以上
5000万円以上 15日以上

やむを得ない事情があるときは、10日以上と15日以上の期間を5日以内に限って短縮できる。1日以上の区分に短縮の定めはない。

契約書がどの条文を持っているか

遅れが出た後で使える条文は、契約書がどの約款に沿っているかで変わる。中央建設業審議会の民間建設工事標準請負契約約款は令和7年12月2日に改正され、令和7年12月12日から実施されている。改正で資材の供給減少が工期延長の事由として条文に入った。

約款 改正後の中身
(甲)30条5項 工期延長を請求できる事由に「建設業法第二十条の二第二項に規定する主要な資材の供給の著しい減少その他の工期に影響を及ぼす事象の発生」と、協議の開始の遅延等による協議の長期化(受注者の責めに帰すべき事由によるものを除く)が加わった
(甲)30条6〜10項 工期延長を請求した者は協議を申し出られ、受けた者は正当な理由がある場合を除き誠実に応ずるよう努める。申出と回答の期限は「〇日以内」か「速やかに」を選んで書面で行う
(甲)31条5号 請負代金額の変更を求められる事由に「資材の価格の高騰その他の請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生したとき」が加わった
(乙)21条 (A)は不可抗力または正当な理由による工期延長のみ。(B)は「主要な資材の供給の著しい減少その他の工期に影響を及ぼす事象が発生したとき」を加える。どちらかを選んで使う
(乙)22条 (A)は従来の4事由に協議の申出を足したもの。(B)は資材の価格の高騰を事由に加え、変更の際に価格等の変動の内容その他の事情を考慮する項を置く

(乙)は選択式なので、(A)のまま契約すると資材の供給減少を理由にした工期延長請求の条文が契約書にない。改正前の契約書をそのまま使い回している場合も同じ状態になる。

契約書に入れる事項自体は建設業法19条1項が定めており、3号が工事着手と完成の時期、6号が設計変更や工事の中止の申出があった場合の工期変更と代金変更の定め、7号が天災その他不可抗力による工期の変更、8号が価格等の変動または変更に基づく工事内容と請負代金の額の変更の定めになる。20条の2第3項の協議は、この7号か8号の定めに従って行う建て付けになっている。

遅れが出た後の手順

「工期に関する基準」には、令和6年2月1日に国土交通省が出した通知(国不建第160号、国不建整164号)が抄録されている。能登半島地震の後、電線ケーブルの入手が難しくなった局面で出たもので、納期遅延が起きたときの動き方がそのまま書かれている。

要点は3つ。販売店等から納期遅延の連絡を受けたことなどで予定された工期での完成が難しいと認められる場合、注文者へ工期延長を請求するにあたっては、当該資機材の需給逼迫状況を示すため、販売店等からの情報のほかメーカー業界団体や各メーカーのホームページを活用すること。元請が下請から資機材の納期遅延を理由に工期延長の請求を受けたときは、協議のうえ必要と認められるときは工期を延長すること。受注者の責めに帰すことができない状況が発生しているにもかかわらず、注文者が適切な工期延長やそのための協議に応じない場合や著しく短い工期を設定する場合は、建設業法19条の5に違反するおそれがあること。

19条の5は、通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を、注文者と建設業者の双方に禁じている。発注者が違反した場合、許可行政庁は勧告でき(19条の6第2項)、勧告に従わないときはその旨を公表できる(同条3項)。勧告の対象になるのは請負代金の額が500万円以上の契約で、建築一式工事は1500万円以上(施行令5条の8)。

協議のテーブルの側の解釈も、ガイドラインが具体的に書いている。変更協議の開始自体を正当な理由なく拒絶すること、申出後に合理的な期間以上に協議開始をあえて遅延させること、協議の場で一方的に受注者の主張を否定したり十分に聞き取ることなく打ち切ることは、20条の2第4項の趣旨に反する。協議の長期化で工期が食われた場合は、必要に応じて工期見直しを行うことが求められる、ともある。

延ばすか、別の品に振るか

20条の2第3項で協議を申し出られるのは、契約前に通知した事象が契約締結後に顕在化した場合に限られる。通知していない事象で工期が動いたときは、19条1項6号から8号の契約書の定めと、約款の工期変更条項が根拠になる。

代替品に振る側の手続きは別系統で、確認済証の交付後に建材を変えるときは建築基準法施行規則3条の2の軽微な変更に収まるかどうかで手間が変わる。判定表は廃番建材の差し替え手順に置いた。

納期遅延の連絡を受けた日の確認リスト

# 確認項目
1 遅れる資機材がクリティカルパス上にあるかを工程表で確認した
2 「主要な資機材」の3つの目安(数量、原価比重、止まったときの影響)に照らして対象かを判定した
3 未契約の物件について、契約締結までに通知する対象が残っていないか洗った
4 根拠情報を公表資料で用意した(メーカーの記者発表、業界団体の公表、国の需給調査)
5 通知の書面に資機材の種類、価格の基準日、情報源を書いた
6 見積書を作る案件は書面を添付、作らない案件は書面のみを交付した
7 契約済みの物件について、契約前に通知した事象かどうかを仕分けた
8 契約書の工期変更条項が(A)か(B)か、19条1項7号と8号の定めの中身を確認した
9 工期延長の請求書に、需給逼迫を示す資料の出所を明記した
10 協議の申出と回答の期限が契約書にある場合、その日数を工程表に入れた

契約前の相見積もりの段階で納期と支払条件をどう並べるかは建材の相見積もりの取り方、値上げ告知から実施日までの発注判断は値上げラッシュ下の発注タイミングにまとめている。