賃金や物価が動いたときに請負代金をどう変えるか。この定めが下請契約書に無いと、契約そのものが建設業法19条1項違反になる。国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン第12版(令和8年1月)は、請負代金額の変更について規定する建設工事標準下請契約約款22条に相当する内容が規定されていない契約をすることも、同様に建設業法19条1項に違反する、と書いている。
その22条に、2025年12月12日から3つの項が足された。資材の価格の高騰が起きたときに協議を申し出られること、代金を変えるときは価格転嫁を考えること、申出を受けた側は誠実に協議に応ずるよう努めること。中央建設業審議会が2025年12月2日に改正を決め、第三次・担い手3法の全面施行日に合わせて実施された。
約款そのものは条項の削除も変更も認めている。冒頭の注記は、工事の種類や規模に応じ契約の慣行または施工の実態からみて必要があるときは条項を削除または変更するものとしつつ、元請負人と下請負人の対等性の確保、責任範囲その他契約内容の明確化に留意することを求める。削ってよい条項と、削ると法違反になる条項が混ざっている。
かかるのは請負契約で、商社から建材を買う売買契約は対象外になる。工務店が職人や専門工事業者と結ぶ契約、商社が施工まで請けたときの契約が範囲になる。売買と請負の分かれ目は注文書と請書だけの発注は建設業法19条違反にまとめている。
2025年12月12日に増えた条文
新旧対照表で傍線が引かれたのは5か所。
| 条項 | 改正の中身 |
|---|---|
| 2条2項 | 請負代金内訳書に明示する項目が、健康保険と厚生年金保険と雇用保険に係る法定福利費だけから、材料費、労務費、法定福利費(事業主負担額)、安全衛生経費、建設業退職金共済契約に係る掛金の5つに広がった |
| 2条の2(A)(B) | 適正な労務費の確保等の選択条項が新設。内訳書の労務費が労務費に関する基準を踏まえた額であることを双方で確認し、元請はその労務費を含む代金を支払う |
| 19条 | 工期延長を求められる事由に「建設業法第二十条の二第二項に規定する主要な資材の供給の著しい減少その他の工期に影響を及ぼす事象の発生」が加わった |
| 22条 | 3項から5項が新設。資材の価格の高騰その他の請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生したときの協議の申出、価格転嫁の考慮、誠実協議 |
| 38条 | 元請の催告によらない解除権に、暴力団が経営に実質的に関与する者への請負代金債権の譲渡(9号)と、役員等の属性に関する11号が加わった |
2条の2は(A)と(B)の選択式で、使わないなら削除する。(A)は下請が再下請負人と結ぶ契約にも同じ内容を入れることまで約する形で、(B)は直接の下請までにとどまる。中建審の勧告文は、労務費の行き渡り確保の観点から(A)を基本としつつ、契約段階ごとに個別に導入する(B)も選べる形にしたと説明している。
契約書の様式も1か所変わった。工事を施工しない日と時間帯の欄に付いていた「定めない場合は削除」の注記が削られ、欄そのものが残る形になった。
資材が上がったときに使う条文
22条は改正後5項の構成になる。1項が工期内の賃金または物価の変動で代金が不適当になったときの協議、2項が元請と発注者の間で元請工事の代金が変わったときの協議の申出、3項が資材の価格の高騰その他の事象が発生したときの協議の申出。
3項が指す事象は建設業法20条の2第2項の事象で、ガイドライン第12版は具体例を2つ挙げる。主要な資機材の供給の不足もしくは遅延または資機材の価格の高騰と、特定の建設工事の種類における労務の供給の不足または価格の高騰。主要かどうかは、数量や使用頻度で大宗を占めて欠くことができないこと、工事原価で大きな比重を占めること、数量や比重が少なくても施工に大きな影響を及ぼすことなどで判断する。
法20条の2第3項の協議申出は、契約前に通知した事象が顕在化した場合という条件が付く。約款22条3項にその条件は書かれていない。ガイドライン第12版も、事前に通知していない事象が契約締結後に生じた場合について、通知されていなかったことのみをもって元請負人が下請負人から申し出られた契約変更協議を拒む理由にはならず、誠実に協議に応じることが求められる、としている。契約前の通知の出し方は建材の納期遅れは契約前に伝えるに置いた。
協議の場に出す資料についても書き分けがある。公的主体などが作って更新している一定の客観性を有する統計資料が受注者から出てきたときは、これらを考慮して協議を行うことが求められる。資材業者の記者発表や、現時点と過去の同種工事の資材価格を比べた見積書などは、考慮して協議を行うことが望ましい、という扱いになる。メーカーの価格改定リリースは後者にあたる。
拒み方にも線が引かれている。協議の開始自体を正当な理由なく拒絶すること、申出後に合理的な期間以上に協議開始をあえて遅延させること、協議の場で一方的に相手の主張を否定したり十分に聞き取ることなく打ち切ることは、法20条の2第4項の趣旨に反する。協議が長引いて工期が食われた場合は、必要に応じて工期見直し等を行うことが求められる。
22条4項は、代金を変えるときに「適切な価格転嫁による適正な請負代金の設定がなされるよう」工事に係る価格等の変動の内容その他の事情等を考慮するものとする、と定める。工期の側は19条2項が受け持ち、延長する場合に必要があると認められるときは協議して請負代金額を変更する。
内訳書の材料費には下限がある
2条2項が広がった背景には、建設業法20条1項の改正がある。建設業者は、工事の種別ごとの材料費、労務費、労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費(材料費等)その他必要な経費の内訳と、工事の工程ごとの作業と準備に必要な日数を書いた見積書を作るよう努めなければならない。中建審の勧告文は、労務費の確保に伴う他の経費へのしわ寄せを防ぐため、見積段階で内訳明示される経費を内訳書側にもそろえたと説明している。
材料費には額の下限が引かれた。20条2項は、見積書に記載する材料費等の額を、その工事を施工するために通常必要と認められる額を著しく下回るものであってはならないとする。20条6項は反対側にかかり、注文者は交付を受けた見積書について、材料費等の額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならない。
ガイドライン第12版は、この6項に違反するおそれのある行為事例を挙げている。工事代金を低く抑えるため一方的に通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るおそれのある見積りの変更を求めた場合と、複数社の見積のうち最も低い額を一方的に代金にするため、他社に同様の変更を求めた場合。
20条7項の勧告と、それに従わないときの公表(20条8項が19条の6第3項を準用)の相手は発注者に限られる。建設業法2条5項の発注者は他の者から請け負ったものを除く注文者を指すため、元請は入らない。元請側にかかるのは6項の禁止と、19条の3の不当に低い請負代金の禁止になる。ガイドライン第12版は、元請と下請の双方の義務であるべきところを下請に一方的に課すものや、元請の裁量の範囲が大きく下請に過大な負担を課す内容など、標準下請契約約款に比べて片務的な内容による契約は、19条の3により禁止される不当に低い請負代金につながる可能性が高い契約となるので適当ではない、としている。
建材の扱いを決めている条項
約款の中で工事材料に触れる条文は8つある。自社の契約書から落ちると、材料をめぐる費用の分かれ目が契約書の外に出る。
| 条項 | 中身 |
|---|---|
| 12条1項 | 設計図書に品質が明示されていない工事材料は、中等の品質を有するものとする |
| 12条2項から5項 | 工事材料は使用前に監督員の検査に合格したものを使う。搬入済みの材料は監督員の承諾を受けずに現場外へ搬出しない。不合格と決定された材料は遅滞なく現場外へ搬出する |
| 14条1項 | 支給材料と貸与品の品名、数量、品質、規格、性能、引渡し場所、引渡し時期、返還場所、返還時期は設計図書に定めるところによる |
| 14条3項4項 | 監督員は下請の立会いの上で検査して引き渡す。品質や規格や性能が設計図書の定めと異なる、または使用に適当でないと認めたときは遅滞なく書面で通知する。元請は他の支給材料の引渡しや規格等の変更ができ、必要があると認められるときは協議して工期か請負代金額を変更する |
| 14条6項 | 引渡し時の検査では発見が困難だった種類や品質や数量の不適合で、使用に適当でないと認められるものは、遅滞なく監督員に通知する。その後の扱いは4項を準用する |
| 26条1項2項 | 不可抗力で現場搬入済の工事材料に損害が出たときは、下請が善良な管理者の注意を怠ったことに基づく部分を除き元請が負担する。対象は元請が確認したものに限る。損害額は材料に相応する請負代金額とし、残存価値があればその評価額を差し引く |
| 32条1項 | 現場に搬入して監督員の検査に合格した工事材料は、出来形部分と並んで部分払の対象になる。工場にある製品を対象に含めるかは選択 |
| 47条9項 | 契約不適合が支給材料の性質や元請または監督員の指図によって生じたものであるときは、元請は契約不適合を理由とした請求等をできない。下請がその材料や指図の不適当であることを知りながら通知しなかったときを除く |
12条1項と47条9項は対になっている。設計図書に品質を書かずに出せば中等の品質で足り、施主支給や元請支給の材料に起因する不具合は下請の責任から外れる。拾い出しの段階で品番を確定させる手順はリフォーム案件の拾い出しの型にまとめた。
26条1項には「元請負人が確認したもの」という限定が付く。確認を受けていない搬入材料と仮設物は、この条文の対象に入らない。
空欄のまま回りやすい箇所
約款には数字や選択肢を埋める箇所が並んでいる。ひな型を流用した契約書は、ここが〇のまま回りやすい。
| 箇所 | 埋める中身 | 約款の注記と法令の目安 |
|---|---|---|
| 約款1条4項 | 労働災害補償保険の加入を元請と下請のどちらが行うか | 労働保険の保険料の徴収等に関する法律に基づく加入の実情に合わせて記入 |
| 契約書6欄 前金払 | 契約締結後の日数、金額、現金と手形の別または割合 | 労務費に見合う額は原則として現金払(法24条の3第2項も現金払への配慮を求める) |
| 契約書6欄 部分払 | 締切日と支払日、現金と手形の割合 | 締切の周期に毎、隔などを記入 |
| 契約書6欄 引渡し時の支払い | 請求後の日数と手形期間 | 元請が支払を受けた日から1月以内でできる限り短い期間内(法24条の3第1項)。特定建設業者が注文者なら引渡し申出の日から50日以内(法24条の6第1項)。割引を受けることが困難な手形の交付は禁止(同条3項) |
| 契約書7欄 | 調停人 | 定めない場合は削除し、48条は(B)を使う |
| 2条の2 | (A)か(B)か、使わないなら削除 | 中建審は(A)を基本とする |
| 5条 | (A)か(B)か | (B)は資金調達を目的とする請負代金債権の譲渡を認める。前払や部分払を設定した契約では、それでもなお資金が不足することの疎明が条件になる |
| 32条1項 | 部分払の上限となる割合(十分の〇以内) | 〇は九以上の数字 |
| 35条 | (A)か(B)か | (B)は契約不適合が下請の責めに帰すべき事由により生じた場合に限る |
| 41条1号 | 工事内容の変更で請負代金額が十分の〇以上減ったときの割合 | たとえば六 |
| 41条2号 | 下請が解除できる施工中止期間 | 工期の2分の1の期間か6か月のいずれか短い期間。一部中止のただし書はたとえば三か月 |
| 43条4項 | 前払金の余剰を返すときの年利 | 元請の任意解除や下請側の解除による場合は利息の規定を適用しない |
| 45条2項 | 下請が工期内に完成できなかったときの損害金の年利 | 請負代金額から出来形部分に相当する額を控除した額に対して計算 |
| 46条2項 | 元請の支払遅延に対する遅延利息の年利(前金払と、部分払や引渡し時の支払で別々に置く) | 特定建設業者が注文者の場合の法定の遅延利息は年14.6%(法24条の6第4項、施行規則14条) |
| 47条1項2項 | 契約不適合責任期間(引渡しから〇年、設備の機器本体等は別に〇年) | 原則として元請契約における契約不適合責任の期限に相応する数字 |
47条8項は例外を作っている。品確法94条1項の住宅新築請負契約にあたる場合、同法施行令5条に定める部分の瑕疵(構造耐力または雨水の浸入に影響のないものを除く)について請求等ができる期間は10年で、1項から7項までは適用しない。
検査の側にも法定の期限がある。元請は下請から完成の通知を受けた日から20日以内でできる限り短い期間内に検査を完了しなければならない(法24条の4第1項)。約款27条2項は検査結果を書面で通知することまで求めている。
自社の契約書と突き合わせる順番
| # | 確認項目 |
|---|---|
| 1 | 賃金や物価の変動で請負代金を変える条項(約款22条相当)があるか。「変更しない」「変更を認めない」で終わっていないか |
| 2 | 22条3項にあたる、資材の価格の高騰を理由に協議を申し出られる定めが入っているか |
| 3 | 22条5項にあたる、申出を受けた側が誠実に協議に応ずる定めが入っているか |
| 4 | 19条にあたる工期延長の請求事由に、主要な資材の供給の著しい減少が入っているか |
| 5 | 請負代金内訳書に明示する項目が、材料費、労務費、法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金の5つになっているか |
| 6 | 2条の2のコミットメント条項を(A)(B)のどちらで入れるか、入れないかを決めたか |
| 7 | 支給材料と貸与品の条項(14条相当)が残っているか。設計図書に品名から返還時期までを書いたか |
| 8 | 現場搬入済の工事材料の不可抗力損害(26条相当)と、搬入材料の部分払(32条相当)が落ちていないか |
| 9 | 契約不適合の免責(47条9項相当)が残っているか。支給材料と指図に起因する不具合の扱いを確認したか |
| 10 | 空欄の年利と割合と期間を全て埋めたか。特定建設業者が注文者の契約は、法24条の6第4項の年14.6% と突き合わせたか |
| 11 | 支払時期が、元請が支払を受けた日から1月以内、特定建設業者なら引渡し申出の日から50日以内に収まっているか |
| 12 | 手形期間の欄が、割引を受けることが困難な手形にならない設定か |
| 13 | 双方の義務であるべき条項が下請側だけの義務になっていないか(片務的な内容は19条の3につながる) |
| 14 | 38条の暴力団排除条項を追加したか |
契約書に条文を足す作業は、値上げ告知が届いてからでは間に合わない。改定告知から実施日までの動き方は値上げラッシュ下の発注タイミングにまとめている。



