建材の代金を何日後に、どの手段で払うか。同じ工務店が同じメーカーと取引していても、規格品を買ったのか、自社の物件用に作らせたのかで、かかる法律が変わる。前者は契約で決めた条件がそのまま効き、後者は2026年1月1日施行の取適法(中小受託取引適正化法)で手形の交付が禁じられ、支払期日は受領日から60日以内に縛られる。
取適法:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の通称。旧下請法(下請代金支払遅延等防止法)を改正し、名称と用語を入れ替えたもの。親事業者は委託事業者に、下請事業者は中小受託事業者に変わった。
分かれ目は業種でなく委託の内容にある。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、建設業者が建設資材を業として販売しており当該建設資材の製造を他の事業者に委託する場合と、建設業者が請け負った建設工事に使用する建設資材の製造を他の事業者に委託する場合の両方を、製造委託(類型1)に該当すると書いている。特注のサッシや造作材をメーカーに作らせる発注は、後者に当たる。
一方、建設工事の下請負(建設工事の再委託)には取適法は適用されない。こちらは建設業法が支払期日と手形を縛る。理由もテキストに書かれていて、建設工事の下請負については建設業法において本法と類似の規定が置かれており、中小受託事業者の保護が別途図られているためとされている。
取引の型ごとにかかる規制
| 取引の中身 | かかる規制 | 支払期日の縛り | 手形 |
|---|---|---|---|
| 規格品の建材を商社・メーカーから買う(売買) | 取適法も建設業法の下請代金規定も不適用 | 契約で決めた条件 | 法令上の期日規制なし |
| 自社が請け負う工事に使う建材の製造を委託(特注品) | 取適法(製造委託・類型1) | 受領日から60日以内 | 交付禁止 |
| 自社が販売する建材の製造を委託 | 取適法(製造委託・類型1) | 受領日から60日以内 | 交付禁止 |
| 請け負った建築物の設計・内装設計・工事図面の作成を委託 | 取適法(情報成果物作成委託) | 受領日から60日以内 | 交付禁止 |
| 自社が販売する建材の販売先までの運送を委託 | 取適法(特定運送委託・2026年1月に追加) | 役務の提供を受けた日から60日以内 | 交付禁止 |
| 建設工事の下請 | 建設業法(取適法は不適用) | 支払を受けた日から1月以内。特定建設業者が注文者なら引渡し申出の日から50日以内 | 特定建設業者が注文者の場合、手形期間60日超は違反のおそれ |
売買契約に期日規制がかからないことは、いくら遅らせてもよいという意味ではない。独占禁止法2条9項5号ハは、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施することを挙げていて、公正取引委員会の考え方はここに受領拒否、返品、支払遅延、減額を優越的地位の濫用につながり得る行為の例示として並べている。規格品の売買で効くのはこの一般ルールで、日数の基準は無い。
取適法がかかる相手の組み合わせ
取適法は、取引当事者の資本金または常時使用する従業員の数の区分と、取引の内容の両面で適用範囲を決める。従業員基準は2026年1月の改正で新設され、資本金基準が適用されない場合に適用される。
| 取引 | 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|---|
| 物品の製造委託・修理委託・特定運送委託、プログラムの作成、運送・倉庫保管・情報処理の役務提供委託 | 資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
| 同上 | 資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
| 同上 | 常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下(個人を含む) |
| 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託 | 資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下(個人を含む) |
| 同上 | 資本金1千万円超5千万円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
| 同上 | 常時使用する従業員100人超 | 常時使用する従業員100人以下(個人を含む) |
判定は製造委託等をした時点の従業員数による。その後に相手の従業員が増えても、発注時に基準を満たさなかった取引は対象にならない。逆に発注時に該当すれば、その後の増減にかかわらず対象のままになる。発注側に相手の従業員数を確認する義務は無い。
商社が間に入る取引の当事者は、商社の関与の度合いで変わる。製品仕様、受注先の選定、代金の額の決定に全く関与せず、注文書の取次ぎや代金の請求といった事務手続の代行をしているにすぎない場合、商社は当事者にならず、発注者が委託事業者、外注取引先が中小受託事業者になる。テキストはこの場合、委託事業者が商社と外注取引先の間の取引内容を確認し、本法上の問題が生じないように商社を指導する必要があるとしている。商社が委託の内容に関与していれば、発注者と商社の間、商社と外注取引先の間でそれぞれ基準を当てはめる。
取適法での支払条件の上限
禁止されているのは、代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと(5条1項2号)で、括弧書きに手形の交付と、金銭及び手形以外の支払手段であって支払期日までに代金の額に相当する額の金額と引き換えることが困難であるものの使用が含まれている。支払期日そのものは、物品等を受領した日(役務提供委託と特定運送委託は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内に定める。
でんさいが一律に使えなくなるわけではない。公正取引委員会と中小企業庁のリーフレットは、電子記録債権(でんさい)等による支払も、納品日から60日以内に代金満額を受け取れない場合は違反です、と書いている。期日が60日以内に収まり、額面どおり入金される設定なら残る。
手形払いの禁止に伴って、割引困難な手形に係る規制のほうは廃止された。手形期間が何日なら許されるかという基準は、取適法の側には残っていない。
支払が遅れたときの遅延利息は年14.6%(6条、公正取引委員会規則)。起算は受領日から60日を経過した日からで、実際に支払をする日までの日数に応じて計算する。責めに帰すべき理由がないのに代金を減じたときも、減じた日か受領日から60日を経過した日のいずれか遅い日から同じ率がかかる。
2026年1月の改正では、コスト上昇時に価格協議の求めがあったのに協議に応じない、必要な説明をしないといった一方的な代金決定も禁止行為に加わった(5条2項4号)。掛け率や割戻金の交渉での扱いは建材の値引き交渉の材料を作るにまとめている。
建設工事の下請代金の期日
元請は、請負代金の出来形部分に対する支払または工事完成後の支払を受けたときは、その工事を施工した下請に対し、受けた金額の出来形に対する割合と施工した出来形部分に相応する下請代金を、支払を受けた日から1月以内でできる限り短い期間内に支払う(24条の3第1項)。労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならないと2項が定める。
特定建設業者が注文者になった下請契約では期日が短くなる。下請代金の支払期日は、引渡し申出の日から起算して50日を経過する日以前で、かつできる限り短い期間内に定める(24条の6第1項)。相手が特定建設業者か資本金4千万円以上の法人であるときは対象から外れる。期日を定めなかったときは申出の日が、50日を超えて定めたときは申出の日から50日を経過する日が支払期日とみなされる。支払わなかった場合の遅延利息は年14.6%(施行規則14条)。
起算点になる引渡し申出の日は検査とつながっている。元請は下請から工事完成の通知を受けたら、その日から20日以内でできる限り短い期間内に完成を確認する検査を完了し、確認後に下請が申し出たときは直ちに引渡しを受ける(24条の4)。検査を引き延ばせば、その分だけ支払期日も後ろにずれる構造になっている。
手形期間の基準は2024年11月1日に変わった。公正取引委員会が同日から、サイトが60日を超える長期の手形等を交付した場合に割引困難な手形の交付等に該当するおそれがあるものとして指導する運用に切り替え、対象に手形、一括決済方式、電子記録債権を挙げた。取適法の対象取引ではその後に手形払いそのものが禁じられたので、この60日という基準が今も日々効くのは建設業法の側になる。国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン第12版は、元請負人が手形期間60日を超える長期手形を交付した場合は割引を受けることが困難である手形の交付と認められる場合があり、その場合には建設業法24条の6第3項に違反するとしている。
同じガイドラインは支払手段そのものにも踏み込む。下請代金の支払を全額手形払いで行う場合と、労務費相当分に満たない額を現金で支払い残りは手形で支払う場合を、建設業法上望ましくない行為事例として挙げている。そのうえで、元請と下請の関係のみならず、資材業者、建設機械又は仮設機材の賃貸業者、警備業者、運送事業者、建設関連業者等との関係においても、約束手形の利用の廃止等に向けて前金払等の充実、振込払い等への移行、支払サイトの短縮等の取組を進めるよう求めている。法令上の期日規制がかからない建材の売買にも、行政の要請はこの形で及んでいる。
振込手数料の扱いにも言及がある。ガイドラインは、振興基準において、合意の有無にかかわらず、銀行口座への振込手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引いてはならないとされていることを挙げている。
手形とでんさいと振込の違い
でんさい:株式会社全銀電子債権ネットワークが取り扱う電子記録債権。手形と指名債権の問題点を克服した金銭債権として設計されている。
| 項目 | 約束手形 | でんさい(電子記録債権) | 振込 |
|---|---|---|---|
| 現金化の時期 | 満期日。前倒しは割引 | 支払期日に口座へ自動入金。前倒しは割引 | 支払日に入金 |
| 取立ての手間 | 取立手続きが要る | 期日に自動で入金され取立手続きが要らない | なし |
| 分割 | できない | 分割して譲渡・割引できる | 該当なし |
| 印紙税 | 手形金額に応じてかかる(第3号文書) | かからない | かからない |
| 紛失・盗難 | あり | 記録機関の記録なので生じない | なし |
| 使える期限 | 電子交換所での交換は2027年3月31日まで | 廃止の予定なし | 廃止の予定なし |
印紙税は手形金額で段が変わる。10万円未満は非課税、10万円以上100万円以下が200円、100万円超200万円以下が400円、200万円超300万円以下が600円、300万円超500万円以下が1千円、500万円超1千万円以下が2千円、1千万円超2千万円以下が4千円、2千万円超3千万円以下が6千円、3千万円超5千万円以下が1万円、5千万円超1億円以下が2万円。1億円を超えると4万円から20万円まで上がる。
期限のほうは全国銀行協会が2026年6月18日に決めた。手形・小切手の電子交換所における交換の廃止時期を2027年3月31日と明確にし、定額小為替証書や株式配当金領収証といったその他証券についても2029年6月29日をもって交換を廃止する。2026年度末までに電子交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを目標にした自主行動計画の最終年度に当たる。2027年4月1日以降に紙の手形を受け取っても、電子交換所を通した決済はできず、金融機関ごとの相対決済に頼ることになる。
支払条件を決めるときの確認項目
| # | 確認する内容 |
|---|---|
| 1 | 取引が売買か、製造委託・情報成果物作成委託・特定運送委託か、建設工事の請負か |
| 2 | 取適法の対象なら、自社と相手の資本金または常時使用する従業員数の組み合わせ(発注時点で判定) |
| 3 | 支払期日の起算日(受領日、役務の提供を受けた日、引渡し申出の日、元請が支払を受けた日のどれか) |
| 4 | 起算日から支払日までの日数(取適法は60日以内、特定建設業者の下請代金は50日以内、元請の下請代金は1月以内) |
| 5 | 支払手段の別。手形を使う契約なら、期間が60日以内か、2027年3月31日以降の代替手段を決めてあるか |
| 6 | でんさいを使う場合、支払期日が60日以内に収まり額面どおり入金される設定か |
| 7 | 振込手数料をどちらが負担すると書いてあるか |
| 8 | 遅延利息の率(法定は年14.6%)を契約書に置いてあるか |
| 9 | 商社が間に入る取引で、仕様・受注先・代金の決定に商社が関与しているか |
取引先の倒産に備える見方は取引先の倒産に備える与信管理、契約書側の条項の点検は下請契約書と標準約款の差分に分けて書いている。



