実行予算そのものに法令上の様式はない。決まっているのはその前後だ。契約前に注文者へ出す見積書は建設業法20条1項が記載事項を定め、決算で出す完成工事原価報告書は建設業法施行規則の別記様式第16号で科目が固定されている。実行予算をこの2つと違う区分で組むと、月次で拾った差異を価格交渉にも決算にも渡せない。

社内資料で終わらない場面もある。国土交通省の「労務費に関する基準」の運用方針は、建設業法19条の3が禁じる原価割れ契約について、同条の「通常必要と認められる原価」は直接工事費と間接工事費(共通仮設費と現場管理費)、一般管理費(利潤相当額は含まない)の合計であり、具体的には下請負人の実行予算や再下請先、資材業者との取引状況、その地域の同種工事の請負代金額の実例により判断されるとしている。行政が原価割れを見にくるとき、実行予算が判断の材料になる。

原価を4つに分ける線引き

完成工事原価報告書の科目と摘要は、昭和57年建設省告示第1660号(最終改正 令和4年4月11日国土交通省告示第473号)が定める。原価計算の教科書ではなく告示が線を引いているので、社内の呼び方がどうであれ、決算ではこの4区分に落とし込むことになる。

科目 告示の摘要
材料費 工事のために直接購入した素材、半製品、製品、材料貯蔵品勘定等から振り替えられた材料費(仮設材料の損耗額等を含む)
労務費 工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料及び手当等。工種・工程別等の工事の完成を約する契約でその大部分が労務費であるものは、労務費に含めて記載することができる
(うち労務外注費) 労務費のうち、工種・工程別等の工事の完成を約する契約でその大部分が労務費であるものに基づく支払額
外注費 工種・工程別等の工事について素材、半製品、製品等を作業とともに提供し、これを完成することを約する契約に基づく支払額。ただし、労務費に含めたものを除く
経費 完成工事について発生し、又は負担すべき材料費、労務費及び外注費以外の費用で、動力用水光熱費、機械等経費、設計費、労務管理費、租税公課、地代家賃、保険料、従業員給料手当、退職金、法定福利費、福利厚生費、事務用品費、通信交通費、交際費、補償費、雑費、出張所等経費配賦額等
(うち人件費) 経費のうち従業員給料手当、退職金、法定福利費及び福利厚生費

労務費と外注費の分かれ目は、相手が素材や製品を作業とともに提供するかどうかにある。材料をこちらで持ち込み、施工だけを頼んだ手間請けは、工事の完成を約する契約であっても大部分が労務費なので労務費に入れてよく、その支払額を「うち労務外注費」に内書きする。材工一式で頼めば外注費になる。同じ協力会社への同じ月の支払いでも、材料を誰が持ったかで科目が変わる。

労務費の本体は自社で直接雇用した作業員の賃金に限られる。現場に常駐する施工管理者の給料と手当は労務費ではなく、経費の従業員給料手当(うち人件費)に入る。本店や支店の従業員給料手当は工事原価に入らず、販売費及び一般管理費になる。実行予算で現場代理人の人件費をどこに置くかは、この3段の区別に合わせておくと決算で組み替えずに済む。

見積書の内訳明示項目と、原価4区分の対応

2025年12月12日に全面施行した改正建設業法20条1項は、請負契約を締結するときに、工事の種別ごとの材料費、労務費、労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるもの、その他の必要経費の内訳と、工程ごとの作業と準備に必要な日数を記載した見積書(材料費等記載見積書)を作るよう努めることを求めている。省令で定める経費は施行規則13条の12の3つで、法定福利費(工事に従事する者の健康保険料等の事業主負担額)、安全衛生経費(建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律10条に規定する経費)、建設業退職金共済契約に係る掛金である。

この見積書の内訳と原価4区分は、そのままでは重ならない。労務費の中身が違うためだ。基準が言う労務費は技能者の賃金相当分(法定福利費の個人負担分を含む)だけを指し、事業主負担分と安全衛生経費、建退共掛金は労務費に含めず別に計上すべき経費として整理されている。

見積書で内訳明示する項目 完成工事原価報告書での行き先
材料費 材料費
労務費(技能者の賃金相当分。法定福利費の個人負担分を含む) 労務費。手間請けで賄う分は「うち労務外注費」に内書き
法定福利費(事業主負担分) 経費(うち人件費)
安全衛生経費 経費
建設業退職金共済の掛金 経費
材工一式で頼む工種の請負額 外注費

法定福利費として見積る保険料の範囲は、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金、雇用保険料、労災保険料、子ども・子育て支援金。社会保険未加入対策では健康保険、厚生年金保険、雇用保険の3保険が中心だったが、20条の内訳明示ではこの範囲になる。元請が発注者に出す見積書では、元請として負担する労災保険料も含めた額で計算する。見積の段階で保険の事業主負担が発生しない作業員を特定するのは難しいため、積算した労務費を元に法定福利費を算出する方法が運用方針で挙げられている。

労務費の計算式と下限

中央建設業審議会が令和7年12月2日に決定した「労務費に関する基準」は、請負契約で確保されるべき適正な労務費を次の式で位置づけた。

適切な職種の公共工事設計労務単価(円/人日、8時間)×施工条件や作業内容に照らして適正な歩掛(人日/単位施工量)×必要な数量

単価は工事の施工場所が属する都道府県の値を使い、これを下回る水準は設定しない。1日8時間が前提なので、8時間に満たない作業が見込まれるなら単価と歩掛を1時間当たりに割り戻し、8時間を超えるなら時間外手当を別途見積る。

令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価は、47都道府県51職種で設定され、全国全職種の加重平均が25,834円と初めて25,000円を超えた。伸び率は単純平均で前年度比4.5%、平成25年度の改定から14年連続の上昇にあたる。主要12職種の加重平均は24,095円で同4.2%。

職種 全国平均値 令和7年3月比
型わく工 31,671円 +5.0%
鉄筋工 31,267円 +4.6%
とび工 30,780円 +4.0%
左官 30,508円 +4.1%
大工 30,331円 +3.1%
運転手(特殊) 29,442円 +4.8%
特殊作業員 28,111円 +4.3%
運転手(一般) 25,275円 +2.9%
普通作業員 23,605円 +3.0%
交通誘導警備員A 18,911円 +5.8%
軽作業員 18,605円 +2.9%
交通誘導警備員B 16,749円 +6.7%

金額は加重平均値、伸び率は単純平均値で算出されている。この単価に入っているのは基本給相当額、基準内手当、臨時の給与(賞与等)、実物給与(食事の支給等)の4つ。時間外や休日、深夜の割増賃金、通常の作業条件を超えた労働への手当、現場管理費と一般管理費等の諸経費は入っていない。国土交通省は発表資料で、事業主が負担すべき人件費が単価に含まれないことを挙げ、下請代金に必要経費分を計上しない、または下請代金から値引くことは不当行為だと明記した。

基準と同じ施工条件で基準を下回る見積りは原則として不適正、著しく下回れば違法になる。機械の導入などで歩掛そのものを改善して低く見積るのは差し支えないが、実際にその歩掛で施工できる理由を説明できることが条件で、根拠なく歩掛を割り引けば「著しく低い労務費での見積り」として建設業法違反のおそれがある。逆に小ロット工事のように歩掛が悪くなる工事では、基準より高い労務費が適正になる。猛暑日のように作業効率へ影響する事象が工期中に見込まれるなら、その影響を織り込んだ歩掛で見積り、見積条件と一緒に注文者へ示す。

強制力の側も並んでいる。材料費等の額が通常必要と認められる額を著しく下回る見積りは法20条2項違反で、違反した建設業者は法28条の監督処分の対象になる。注文者が著しく下回る変更を求めるのは同条6項違反で、その求めに応じて変更された見積りの内容で契約が結ばれ、適正な施工の確保のため特に必要と認められるときは、許可行政庁が発注者に勧告でき、勧告に従わなければ公表できる(同条7項、8項。勧告は通常必要と認められる費用の額が政令で定める金額以上の契約に限る)。契約自体が無効になるわけではないが、内容を直さない限り違法状態が続く。

自社が原価割れで受けられる場合

自社の側にも下限がある。法19条の3第2項は、正当な理由がある場合を除いて、通常必要と認められる原価に満たない金額での請負契約の締結を建設業者に禁じている。施行規則13条の11が挙げる正当な理由は3つだけで、自ら保有する低廉な資材を使えること、先端的な技術や蓄積された知識、技術、技能の活用で工事原価の低減が図られていること、緊急の必要その他やむを得ない事情があること。実行予算が原価割れで出た案件を受けられるのは、この3つのいずれかに当たるときに限られる。

月次の実績を積む先と、契約で戻せる差異

引渡しの前に発生した工事費は、未成工事支出金に積む。告示の摘要は「完成工事原価に計上していない工事費並びに材料の購入及び外注のための前渡金及び手付金等」で、完成工事原価は完成工事高に計上したものに対応する工事原価を指す。工事別かつ4区分別に未成工事支出金へ入れておけば、月次の実績はそのまま実行予算の行と突き合わせられ、完成工事高に計上した分に対応する原価を完成工事原価へ振り替えれば決算につながる。

差異を月次で見る理由は、後から精算できないところにある。運用方針は、契約時に見込んだ労務費と実際に完工までに要した労務費に差分が生じても、それに伴う損益は受注側に帰属し、基本的に差分の精算は想定されないとしている。動かせるのは、契約の前提が変わった場合に限られる。

月次で見る行 予算側の根拠 実績側の器 差が出たときに契約で動かせるか
材料費 材料費等記載見積書の材料費 未成工事支出金の材料費 主要な資機材の供給の不足や遅延、資機材の価格の高騰(天災その他不可抗力によるものに限る)を法20条の2第2項で事前通知していれば、発生後に協議を申し出られる
労務費 労務単価×歩掛×数量 未成工事支出金の労務費 特定の工事の種類における労務の供給の不足や価格の高騰も同じ通知の対象。通知がなかった場合も契約書の請負代金額の変更方法に基づく協議
外注費 下請から取った材料費等記載見積書 未成工事支出金の外注費 注文者都合の設計図書の変更や詳細化、施工対象物の増減は契約変更と請負代金額の変更
経費(法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金) 施行規則13条の12 未成工事支出金の経費 通知の対象ではない。労務費の確保に伴うしわ寄せを受けてはならない経費として整理されている
経費(うち人件費のその他) 現場の従業員給料手当、退職金、福利厚生費 未成工事支出金の経費 契約変更の対象にはならない

通知の対象になる事象は施行規則13条の16第2項が2つ挙げる。主要な資機材の供給の不足もしくは遅延または資機材の価格の高騰と、特定の建設工事の種類における労務の供給の不足または価格の高騰で、いずれも天災その他不可抗力により生じるものに限られる。事前通知をしていた建設業者は、契約締結後にその事象が発生したとき、契約書の法定記載事項である請負代金額の変更条項に基づいて協議を申し出ることができ、注文者は申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除いて誠実に応ずるよう努めることになる(法20条の2第3項、4項)。労務費の上昇で原価が請負代金額を上回ったのに、注文者が取引上の地位を不当に利用して協議に応じず、通常必要と認められる額に比して著しく低い額のままになったときは、19条の3第1項違反のおそれがある。

差異の裏づけとして残す書類にも期限がある。当初見積書(契約締結の前提となる設計図書等が整った後に受注者が初めて作成して提出する見積書)と最終見積書(契約内容の明細を示す見積書)は、請負契約書と同じく目的物の引渡しから10年の保存義務がかかる(法40条の3、施行規則26条5項、28条2項)。帳簿と添付書類の保存は引渡しから5年で、発注者と結んだ住宅の新築工事に係るものは10年。建設Gメンや許可行政庁が労務費の水準を確認しにくるときに参照するのはここなので、電磁的方法での保存が望ましいとされている。

確認先: 労務費に関する基準ポータルサイト(職種分野別の基準値)、令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価(都道府県別、職種別の単価表)