注文書をFAXで流し、請書が返ってきたので着工した。この形は、国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン第12版(令和8年1月)が建設業法19条1項違反の行為事例として名指ししている。基本契約書を取り交わさない、あるいは契約約款を添付せずに、注文書と請書のみ、またはいずれか一方のみで契約を締結した場合が該当する。

19条1項が求めるのは、契約の内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することだ。注文書と請書のやりとりでこれを満たすには、注文書に載らない項目を置く器を別に用意する必要がある。

交付の時期にも縛りがある。災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として工事の着工前。契約の締結前に着工させ、施工途中や終了後に書面を交付した場合も、同項違反の行為事例に並ぶ。

建材の仕入れに19条はかかるか

19条がかかるのは建設工事の請負契約で、建材の売買は入らない。建設業法2条1項は「建設工事」を土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものと定義し、2項は「建設業」を建設工事の完成を請け負う営業とする。商社から建材を買う契約は売買であって請負ではない。

国土交通省関東地方整備局の資料も、資材業者との売買契約を建設工事に該当しない業務として下請契約の総額の判断から外している。施工体制台帳についても、資材納入、調査業務、運搬業務、警備業務にかかる契約金額は含まないとしている。

分かれ目は施工の有無にある。サッシや断熱材を現場に納めるだけなら売買、取り付けまで含めれば請負になり、19条の書面義務と許可の要否がかかってくる。同じ相手との取引でも、納材のみの回と施工付きの回で扱いが変わる。

契約書面の3つの型

書面の作り方は3通りある。関東地方整備局の資料が並べるのは、請負契約書1本で済ませる型、基本契約書を先に交わして個別取引を注文書と請書で回す型、注文書と請書のそれぞれに契約約款を付ける型。後ろの2つの要件は「注文書及び請書による契約の締結について」(建設省経建発第132号、最終改正 令和7年9月30日国不建第81号)が決めている。

器の構成 要件
請負契約書 契約書1本 19条1項の記載事項を全て書き、署名または記名押印して相互に交付
基本契約書+注文書と請書 基本契約書を1回、以後は注文書と請書の交換 基本契約書に個別記載事項を除く各号を記載して相互に交付。注文書と請書には1号から4号その他必要な事項。記載外の事項は基本契約書の定めによる旨を明記
注文書と請書+契約約款 毎回、注文書と請書に同一内容の約款を添付または印刷 約款に個別記載事項を除く各号を記載。複数枚に及ぶときは割印。個別的記載欄に1号から4号その他必要な事項と、記載外は約款による旨を明記

どちらの型でも、注文書と請書の側に置くのは19条1項1号から4号にあたる4項目で、5号から15号は基本契約書か契約約款が引き受ける。

15項目のどれをどちらに置くか

記載事項は15項目。法19条1項は16号まであるが、16号は国土交通省令に委ねられていて、関東地方整備局の資料は該当する規定が無い旨を注記している。

# 記載事項 置く場所
1 工事内容 注文書と請書
2 請負代金の額 注文書と請書
3 工事着手の時期および工事完成の時期 注文書と請書
4 工事を施工しない日または時間帯の定めをするときは、その内容 注文書と請書
5 前金払または出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期と方法 基本契約書か約款
6 設計変更、工事着手の延期、工事の中止の申出があった場合の工期変更、請負代金の額の変更、損害の負担とそれらの額の算定方法 基本契約書か約款
7 天災その他不可抗力による工期の変更または損害の負担とその額の算定方法 基本契約書か約款
8 価格等の変動または変更に基づく工事内容の変更または請負代金の額の変更とその額の算定方法 基本契約書か約款
9 工事の施工により第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担 基本契約書か約款
10 注文者が資材を提供し、または建設機械を貸与するときは、その内容と方法 基本契約書か約款
11 完成を確認するための検査の時期と方法、引渡しの時期 基本契約書か約款
12 工事完成後における請負代金の支払の時期と方法 基本契約書か約款
13 目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合の担保責任、または保証保険契約の締結その他の措置の定めをするときは、その内容 基本契約書か約款
14 履行の遅滞その他債務不履行の場合の遅延利息、違約金その他の損害金 基本契約書か約款
15 契約に関する紛争の解決方法 基本契約書か約款

1号の工事内容は、両ガイドラインとも「○○工事一式」といった曖昧な記載を避けるべきだとしている。求められているのは責任施工範囲と施工条件が具体的に読み取れる書き方になる。

工事内容欄に入れる中身

何を書けば具体的といえるかは、見積条件の提示(法20条3項)の側に手がかりがある。建設業法令遵守ガイドライン第12版は、元請が下請へ最低限明示すべき事項として8つを挙げる。

# 明示する事項
1 工事名称
2 施工場所
3 設計図書(数量等を含む)
4 下請工事の責任施工範囲
5 下請工事の工程および下請工事を含む工事の全体工程
6 見積条件および他工種との関係部位、特殊部分に関する事項
7 施工環境、施工制約に関する事項
8 材料費、労働災害防止対策、建設副産物(建設発生土等の再生資源および産業廃棄物)の運搬と処理に係る元請下請間の費用負担区分

発注者と受注者の間のガイドライン第8版では、8番目の費用負担区分を除く7項目になる。具体的内容が確定していない事項は、確定していない旨を明確に示さなければならない。施工条件が確定していないなどの正当な理由がないのに提示しなければ、20条3項違反になる。

見積依頼で提示する範囲は、19条1項の記載事項から請負代金の額を除いた14項目にあたる。ここで固めた条件がそのまま注文書の工事内容欄に落ちる。

押印を省ける3要件

令和7年9月30日の改定で、基本契約書方式に例外が入った。次の3つを全て満たすとき、注文書と請書への署名または記名押印は必ずしも必要としない。

# 要件
1 注文者が消費者契約法2条1項に規定する「消費者」でないこと
2 基本契約書の締結時に、注文者と請負者が、ガイドラインの考え方に従い対等なパートナーシップに基づく関係にあることを相互に確認すること
3 基本契約書の締結時に、注文者と請負者が、両者の間において反復継続的な取引実績が蓄積されていることを相互に確認すること

確認するのは基本契約書を交わす時点で、個別の注文書ごとではない。3要件を満たしたうえで契約金額や工期を勘案し、双方の合意で署名押印を残すことも妨げられない。約款添付方式の側にはこの例外が無く、注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名または記名押印する。

施主が個人の元請契約は1つ目の要件で外れる。省略が効くのは工務店と下請、あるいは工務店と施工を伴う商社との間の反復取引になる。

8号を空欄にすると契約自体が違反になる

価格等の変動を扱う8号は、書き方まで踏み込んだ指摘がある。両ガイドラインは、8号の内容を契約書に記載しないことはもとより、記載していても「変更しない」「変更を認めない」のように協議を前提としない規定である場合は19条1項に違反するとしている。

算定方法の書きぶりとして示されているのは「協議して定める」に加え、双方の合意のもとで「協議して定める。協議に当たっては、工事に係る価格等の変動の内容その他の事情等を考慮する」と記載する形。建設工事標準下請契約約款22条(請負代金額の変更)に相当する内容が規定されていない契約も、同じく19条1項違反にあたる。

値上げ告知を受けて単価を差し替える局面で効くのはこの条文で、無い契約書では協議のテーブル自体が立たない。改定告知から実施日までの動き方は値上げラッシュ下の発注タイミングにまとめている。

変更するときの書面

19条2項は、1項に該当する事項を変更するときも、変更内容を書面に記載して相互に交付するよう求める。通達132号は注文書と請書による変更の方法を2つに分けている。

変更の中身 方法
個別的記載事項に係るもののみ 注文書と請書の双方に変更内容を明記し、それぞれ署名または記名押印。基本契約書方式で押印省略の3要件を満たすときは押印を省ける
個別的記載事項以外を含む 変更の内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付

交付の時期は、災害時等でやむを得ない場合を除き追加工事等の着工前が原則になる。工事に着手した後や終了した後に書面で契約変更を行った場合は、19条2項違反の行為事例として挙げられている。

数量が着工前に固まらない案件には別の手当てがある。その都度の追加変更契約が不合理な場合、発注者は次の3点を書いた書面を追加工事等の着工前に受注者と取り交わし、契約変更の手続は内容が確定した時点で遅滞なく行う。依頼する工事の具体的な作業内容、契約変更等の対象になることと変更を行う時期、追加工事等に係る契約単価の額。工期だけが動いて変更後の工期が直ちに確定できない場合も、契約変更の対象になることと行う時期を書いた書面を取り交わす形になる。

電子契約に切り替えるとき

19条3項は、書面の交付に代えて電磁的措置を講じることを認める。手順は事前承諾と技術的基準の2段構えになる。

事前承諾は施行令5条の5が定める。講じる電磁的措置の種類と内容を相手方に示し、書面または電磁的方法による承諾を得る。示す中身は施行規則13条の5で、どの措置を講じるかと、ファイルへの記録の方式の2つ。令和7年9月30日の電磁的措置ガイドラインは、記録の方式として電子データの形式、閲覧に使うソフトの形式やバージョン、付す電子署名またはタイムスタンプの形式を示すことが望ましいとしている。サービス名も示すことが望ましい、とある。相手方が書面または電磁的方法で承諾を撤回すれば、以後は電磁的措置を講じてはならない。

技術的基準は施行規則13条の4第2項の3つ。

基準 中身 満たし方
見読性 相手方がファイルへの記録を出力して書面を作成できること ディスプレイや書面に速やかかつ整然と表示できるようにする。記録の管理や検索機能の実装、契約成立後に自らの端末へ保存する対応が望ましい
原本性 記録された契約事項等に改変が行われていないかを確認できる措置 公開鍵暗号方式による電子署名、タイムスタンプ、またはこれらと同等の効力を有すると認められる方法
本人性 相手方が本人であることを確認できる措置 特定認証業務を行う事業者等の第三者機関が発行する電子証明書を添付することが望ましい

契約サービス提供者の署名鍵を使ういわゆる事業者署名型を使う場合、同ガイドラインは、原本性についてサービス提供事業者の意思が介在する余地がなく利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されるサービスを用いる必要があるとし、本人性については2要素認証等の利用が望ましいとしている。

使える手段として挙がっているのは、電子メール、ファイル転送サービス、クラウドサービス、コンパクトディスク。クラウドサービスなど閲覧に供する形の措置を使うときは、契約事項等が記録されたことが相手方に通知されるシステムである必要がある(規則13条の4第3項)。平成13年3月30日付けの旧ガイドラインは廃止された。

電子化しても記載事項は変わらない。15項目は電子契約でも同じように書く。FAXと電話から切り替える段取りは受発注のFAX・電話をやめる手順に置いた。

印紙の要否

紙の注文請書は印紙税法上の契約書にあたる。印紙税法別表第一の課税物件表の適用に関する通則5が、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書で契約の成立等を証することとされているものを契約書に含めているためだ。建設工事の請負なら第2号文書になる。

契約金額100万円超は軽減税率の対象で、平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作成されるものに適用される。

記載された契約金額 軽減後の税額
100万円超 200万円以下 200円
200万円超 300万円以下 500円
300万円超 500万円以下 1千円
500万円超 1000万円以下 5千円
1000万円超 5000万円以下 1万円
5000万円超 1億円以下 3万円
1億円超 5億円以下 6万円
5億円超 10億円以下 16万円
10億円超 50億円以下 32万円
50億円超 48万円

100万円以下は軽減の対象外で税額200円、契約金額1万円未満は非課税。

電磁的記録で送る場合の扱いは、福岡国税局が平成20年10月24日に回答した文書回答事例にある。注文請書をPDF等の電磁的記録に変換して電子メールで送信する場合、現物の交付がなされない以上、ファクシミリ通信で送信したものと同様に課税文書を作成したことにはならず、課税原因は発生しない。ただし電子メールで送信した後に現物を別途持参するなどして相手方に交付すると、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課される。

解体を含む工事の追加4項目

一定規模以上の解体工事等では、建設リサイクル法13条により4項目が上乗せになる。分別解体等の方法、解体工事に要する費用、再資源化等をするための施設の名称と所在地、再資源化等に要する費用。15項目に加えて書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付する。

対象になる規模は4区分。建築物の解体工事は床面積の合計80平方メートル、建築物の新築または増築は床面積の合計500平方メートル、それ以外の建築物に係る新築工事等は請負代金の額1億円、建築物以外の解体工事または新築工事等は請負代金の額500万円。二以上の契約に分割して請け負う場合は一の契約とみなして基準を適用する(正当な理由に基づく分割を除く)。

交わした後の保存

40条の3は、営業所ごとに帳簿を備えて5年間保存するよう求める。発注者と締結した住宅を新築する建設工事に係るものは10年間になる(施行規則28条1項)。帳簿には契約書もしくはその写し、またはその電磁的記録を添付する(同26条2項、7項)。

発注者から直接請け負った建設業者は、営業に関する図書を目的物の引渡しから10年間保存する。対象は完成図、工事内容に関する発注者との打合せ記録(相互に交付したものに限る)、施工体系図、見積書またはその写し、契約締結前に作成した見積書の内容に関する打合せ記録(相互に交付したものに限る)。帳簿も添付書類も図書も、電磁的記録で足りる。

発注書を出す前の確認リスト

# 確認項目
1 その契約が請負か売買かを仕分けた(納材のみか、施工を含むか)
2 基本契約書があるか、無ければ注文書と請書に同一内容の契約約款を添付または印刷したか
3 基本契約書または約款に19条1項5号から15号が入っているか
4 注文書と請書に1号から4号を書いたか
5 記載外の事項は基本契約書(約款)の定めによる旨を明記したか
6 工事内容欄が「一式」で終わっていないか。責任施工範囲と施工条件、費用負担区分を書いたか
7 8号の条項が「協議して定める」形になっているか。「変更しない」になっていないか
8 押印省略の3要件を使う場合、基本契約書の締結時に2つの相互確認を済ませたか
9 着工前に交付したか。追加工事や工期変更も着工前に書面化したか
10 電子契約なら、措置の種類と記録の方式を示して事前承諾を得たか
11 電子契約なら、見読性、原本性、本人性の3基準を満たすサービスか
12 紙で交わす契約金額100万円超の請書に、軽減後の税額の収入印紙を貼ったか
13 解体を含む一定規模以上の工事で、建設リサイクル法の4項目を書いたか
14 契約書の写しを帳簿に添付し、保存年数を台帳の運用に落としたか

見積の段階で条件をそろえる手順は建材の相見積もりの取り方、契約前に納期の遅れを伝える20条の2の通知は建材の納期遅れは契約前に伝えるにまとめている。