FAXを紙に出すのをやめて、複合機でPDFのまま受け取る。この切り替えだけで、その注文書は電子帳簿保存法の電子取引(取引情報の授受を電磁的方式により行う取引)になり、データのまま保存する義務が付く。国税庁の一問一答(令和7年6月)は、ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用した取引を電子取引の例に挙げている。
対象は請求書だけではない。取引情報とは「注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項」で、発注書も注文請書も入る。令和3年度の税制改正で、データを紙に出力して保存する措置は廃止された。
電子取引に当たる受け取り方
一問一答の問5が挙げる7つの形と、建材の受発注での該当例を並べる。
| 国税庁が電子取引として挙げる形 | 建材の受発注での例 |
|---|---|
| 電子メールで請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領 | メールで届く注文請書や納品書のPDF |
| ホームページからダウンロードしたデータ、ホームページ上の画面のスクリーンショット | 商社のWeb発注画面から落とす注文控え |
| 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービス | 受発注クラウドでやりとりする発注データ |
| クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードの支払データ、スマートフォンアプリの決済データを活用したクラウドサービス | 資材や消耗品のカード購入明細 |
| 特定の取引に係るEDIシステム | 商社とシステム間でつなぐ注文データ |
| ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機 | 複合機がPDFで受けるFAX注文 |
| DVD等の記録媒体を介した受領 | 明細データをメディアで受け取る場合 |
紙と電子が二重で届く移行期の扱いは問16にある。内容が同一で、書面を正本として扱うと社内で取り決めているなら、書面の保存だけで足りる。ただしメール本文で明細を補足しているなど、書面とデータの内容が同一でないときは両方の保存が要る。
保存でそろえる3つの要件
問18が要件の全体像を示している。
| 区分 | 満たすこと |
|---|---|
| 真実性 | 次の4つのいずれか。①タイムスタンプが付された後の授受 ②速やかに(または業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す ③訂正削除を行った記録が残るシステム、または訂正削除ができないシステムで授受と保存を行う ④訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定して運用し備え付ける |
| 可視性 | 見読可能装置(パソコン、プログラム、ディスプレイ、プリンタ)と操作説明書の備付け。整然とした形式と明瞭な状態で速やかに出力できること。自社開発のプログラムを使う場合はシステム概要書も要る |
| 検索機能 | ①取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索の条件にできる ②日付と金額は範囲を指定して条件を設定できる ③2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できる |
税務調査での出力は、整然とした形式と明瞭な状態で速やかに出せれば画面印刷(ハードコピー)でも認められる(問22)。
真実性をどう満たすかは、受け取り方で変わる。メールのPDFや商社サイトからダウンロードしたデータは受領者側で訂正削除ができるため、送信側でタイムスタンプが付いていないなら、受領者側でタイムスタンプを付けるか事務処理規程で管理する。クラウドサービスやEDIで受ける分は、訂正削除の記録が残るシステムか訂正削除ができないシステムで授受と保存をしていれば要件を満たす。ただしクラウド上に一時保存されたデータを自社にダウンロードして保存する方式なら、メールと同じ扱いになる。
添付ファイルがメールソフトの受信箱で見られるだけでは足りない。問5は、対象データは検索できる状態で保存する必要があり、メールソフト上で閲覧できるだけでは十分とは言えないとしている。
検索要件が不要になる線
検索機能の3つは、条件によって段階的に外れる。
税務職員によるダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、範囲指定と組み合わせの2つは不要。その上で、判定期間に係る基準期間(通常は2年前。法人は前々事業年度、個人事業者は前々年1月1日から12月31日)の売上高が5,000万円以下なら、検索機能の要件は全部不要になる。
検索の範囲についても緩和がある。原則は一課税期間を通じて検索できることだが、取引先ごとに指定のEDIやプラットフォームがあり、取引先や書類の種類ごとに複数を使い分けている場合など、一課税期間を通じた検索が難しい合理的な理由があるときは、保存媒体ごとや一課税期間内の合理的な期間ごとに範囲を指定して検索できれば差し支えない。商社ごとに違う受注サイトを使う工務店はここに当たる。
売上高が超えていても、電磁的記録を出力した書面を取引年月日その他の日付と取引先ごとに整理して提示・提出できるようにしていれば、同じく全部不要。整理の方法は問52が3通り示している。課税期間ごとに日付順にまとめてから取引先ごとに整理する方法、課税期間ごとに取引先ごとにまとめてから日付順に整理する方法、書類の種類ごとにそのどちらかで整理する方法。日頃から書面に出力して整理しておくのが条件で、調査の連絡を受けてから出力して整理する運用では、要件を満たしていないと判断される可能性がある。
受発注ソフトを入れない場合の作り方
問19と問50が、専用ソフトを使わずに要件を満たす方法を挙げている。
- 保存するデータのファイル名を「20210131_㈱霞商店_110000」のように、日付、取引先、金額を統一した順序で入力する
- 取引先ごとにフォルダを分けて、ファイル名には日付と金額だけを入れる
- 表計算ソフトで、日付、金額、取引先を列にした一覧表を作り、データのファイル名には通し番号を振る
真実性は事務処理規程で満たすのが現実的で、国税庁が法人用と個人事業者用のサンプルを配っている。規程を作るだけでは足りず、電子取引データを扱う従業員と管理者に内容を周知して運用する。業務ソフトのワークフロー機能でその運用を確保する形でも差し支えない。
準備が間に合わないとき
令和6年1月1日以後の電子取引には猶予措置がある。税務署長が「相当の理由がある」と認め、調査の際にデータと出力書面の両方を提示・提出できるようにしていれば、保存時に満たすべき要件にかかわらずデータを保存できる。事前の申請手続きは要らない。
相当の理由に当たるのは、保存はできるものの、要件に従って保存するためのシステムや社内のワークフローの整備が間に合わないといった、環境が整っていない事情がある場合。検索機能の準備が間に合わないケースもここに入る。
外れる線も問83が書いている。データそのものの保存は必要で、出力書面だけを保存する対応は認められない。システムとワークフローの整備が整っていて要件どおり保存できるのに、資金繰りや人手不足等の理由もなく従っていない場合は、猶予措置の適用を受けられない。
商社側の受け入れは3通り
発注データがどちらのシステムに乗るかで、費用と手間の出方が変わる。
| 型 | データが乗る先 | 費用と手間の出方 | 例 |
|---|---|---|---|
| 発注側のクラウドに商社を招く | 工務店が契約したサービス | BtoBプラットフォームTRADEは取引先のシステム利用料とサポート費用の負担が一切なし。建設資材や機材レンタルなど商品マスタ不要の取引に対応 | BtoBプラットフォーム TRADE、ANDPAD受発注 |
| 商社のWeb受注サイトから発注する | 商社が導入したシステム | 導入するのは受注側の商社。取引する商社の数だけ発注画面とIDが分かれる | アラジンEC(建築資材と住宅設備に対応) |
| EDIでシステム間をつなぐ | 双方のシステム | 双方に企業識別コードと電子証明書の費用がかかる | CI-NET |
CI-NETは1991年の建設大臣告示を受けて整備されてきた建設業界のEDI標準で、見積、注文と注文請、出来高と請求の帳票データを交換する。参加に要るのは企業識別コードと電子証明書で、費用は次のとおり(税込)。
| 項目 | 初年度 | 2年目・3年目 | 4年目以降(3年ごと) | 有効期間 |
|---|---|---|---|---|
| 企業識別コード(資本金1億円以下) | 17,600円 | 0円 | 22,000円 | 3年 |
| 企業識別コード(資本金1億円超) | 35,200円 | 0円 | 44,000円 | 3年 |
| 電子証明書 | 9,350円 | 0円 | 9,350円 | 3年+30日 |
ANDPAD受発注は、明細のインポートやテンプレートを使った見積と発注のほか、分割納品と配送便の指定、工事出来高の割合と金額での設定、帳票のクラウド保存、スマートフォンでの発注に対応する。
費用に使える補助金
デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠は、ソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)が必須の対象経費で、機能拡張、データ連携ツール、導入コンサルティング、導入設定と研修、保守サポートも対象に入る。補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下。補助率は1/2以内で、令和6年10月から令和7年9月までの間に3か月以上、令和7年度改定の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上いる場合は2/3以内になる。
受発注のソフトは、対象プロセスのうち「決済・債権債務・資金回収管理」や「供給・在庫・物流」に当たる。汎用プロセスだけのソフトは対象外。
切り替えの順番
| 順 | 決めること | 判断の材料 |
|---|---|---|
| 1 | 取引先ごとの注文経路の棚卸し | メール、FAX、電話、商社のWeb画面のどれで来ているか。問5の7分類に当てはめる |
| 2 | 電子で受けるものと紙のまま残すものの線引き | 紙とデータが二重で届く取引は、書面を正本とする取り決めがあるか(問16) |
| 3 | 検索要件の満たし方 | 基準期間の売上高が5,000万円以下か。超える場合はソフトかファイル名の統一か |
| 4 | 真実性の措置 | システムに訂正削除の履歴が残るか。残らないなら事務処理規程 |
| 5 | 商社ごとの受け入れ形態 | 相手のWeb受注サイトか、自社のクラウドへの招待か、EDIか |
| 6 | 費用と補助金の申請 | 導入するソフトが何プロセスを持つか |
受注側の窓口を一本化した事例としては、月3,000件近い受発注を数名で処理する大成木材が、個人アドレスでの受注をやめてFAXを画面に自動通知させた例がある(建材販売の大成木材、個人メールでの受注を廃止)。定着まで約1か月かかっている。



