「もう少し掛け率を」と頼んで話が止まるのは、卸から見て掛け率が単独で動く数字ではないからだ。建材の値段は、メーカーが決めた定価に掛け率をかけた仕切値があり、その上に期末や四半期ごとのリベートが乗る。定価は卸の裁量の外にあり、リベートは供与基準で決まる。値引きの話を通すには、4つの層のどこを動かす交渉なのかを先に分ける必要がある。分けると、卸が根拠を出せる部分と、出しようがない部分がはっきりする。
価格を4つに分ける
定価:メーカーが示す希望小売価格。カタログや価格表に載る。
仕切値:卸が工務店に売る値段。定価に掛け率をかけて出すことが多い。
掛け率:定価に対する仕切値の割合。定価10万円で6掛けなら仕切値は6万円になる。
リベート:仕切価格とは区別されて、取引先に制度的に、または個別の取引ごとに支払われる金銭。公正取引委員会の流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(令和8年7月8日最終改正)はこう定義したうえで、実態は「仕切価格の修正としての性格を有するもの、販売促進を目的としたもの等様々である」としている。
請求書に出るのは仕切値で、年間で見た実質の仕入原価は仕切値からリベートを引いた額になる。リベートが期末や四半期末に精算される限り、期中に見えている掛け率は実質単価ではない。掛け率が低く見える取引先より、掛け率は高いがリベートの厚い取引先のほうが安いことが起こる。
下は計算の形を示すための仮の数字で、実勢の水準ではない。年間300台を仕入れる同じ品番で、2社の条件を実質単価にそろえるとこうなる。
| A社 | B社 | |
|---|---|---|
| 定価 | 10,000円 | 10,000円 |
| 掛け率 | 62% | 58% |
| 仕切値 | 6,200円 | 5,800円 |
| リベート | 年間仕入高の5%を期末に精算 | なし |
| 実質単価 | 5,890円 | 5,800円 |
| 実効掛け率 | 58.9% | 58% |
仕切値だけを並べるとA社が400円高い。リベートを引くと差は90円まで縮む。
リベートの供与基準はどこまで示されるか
リベートの存在自体は独占禁止法の問題にならない。ガイドラインは「リベートは、様々な目的のために支払われ、また、価格の一要素として市場の実態に即した価格形成を促進するという側面も有することから、リベートの供与自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではない」と書いている。
問題になるのは基準が見えないときの効き方だ。ガイドラインは、供与の基準が不明確なリベートを裁量的に提供する場合、特にそれが取引先のマージンの大きな割合を占める場合には、取引先を事業者の販売政策に従わせやすくする効果を生じ、事業活動を制限することとなりやすいとする。そのうえで「事業者においては、リベートの供与の基準を明確にし、これを取引の相手方に示すことが望ましい」と結んでいる。供与基準の開示を求めるのは、ガイドラインが望ましいとしている形そのものになる。
独占禁止法上問題となる場合として、ガイドラインは次の類型を挙げる。該当するかどうかは、リベートの水準、供与する基準、累進度、遡及性などを総合的に考慮して判断される。
| 類型 | 中身 |
|---|---|
| 事業活動の制限の手段としてのリベート | 示した価格で販売しないためにリベートを削るなど、販売価格や競争品の取扱い、販売地域、取引先の制限の手段に使うもの。いくらで売るか、競争品を扱っているかで差別的に供与する行為自体も、違法な制限と同様の機能を持つ場合は不公正な取引方法に当たる。マージンの全部または一部をいったん徴収して後で払い戻す払込制も同じ扱い |
| 占有率リベート | 一定期間の取引額全体に占める自社商品の割合や、店舗の展示に占める割合に応じて供与するもの。市場における有力な事業者が供与し、競争品の取扱いが制限されて市場閉鎖効果が生じる場合は違法 |
| 著しく累進的なリベート | 一定期間の仕入高にランクを設け、ランク別に累進的な供与率を設定するもの。累進度が著しく高い場合は、自社製品を他社製品より優先して扱わせる機能を持つ |
| 帳合取引の義務付けとなるリベート | 小売業者へのリベート額の計算に、特定の卸売業者からの仕入高だけを基礎とするもの |
数量を根拠にするときの筋の通し方
「数量をまとめるので安くしてもらいたい」という求め方には、公的な文書で基準が示されている場面がある。規格や仕様を指定して作らせる取引に適用される中小受託取引適正化法(取適法)で、割戻金が代金の減額に当たらないボリュームディスカウントの条件が示されている。
公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、割戻金が減額に当たらないための条件として、一定期間内に一定数量を超えた発注を達成した場合の割戻金であること、その内容が取引条件としてあらかじめ書面等で合意されていること、書面等の記載と発注書面に明示された代金の額を合わせて実際の代金の額とすることが合意されていること、発注書面と割戻金の内容を記載した書面等が関連付けられていることの4点を挙げる。
「合理的理由」の中身も定義されている。テキストは、発注数量の増加とそれによる単位コストの低減により、当該品目の取引で受託側が得られる利益が、割戻金を支払ってもなお従来より増加することを意味するとしている。したがって、対象品目を特定しない発注総額の増加だけを理由に割戻金を求めることはボリュームディスカウントに当たらない。将来の発注予定数量を定めて実績がそれを上回るだけでも足りず、特定の品目について新年度の発注予定数量が前年度の実績を上回り、それに伴って受託側の利益も前年度を上回る必要がある。テキストは、合理的な理由に基づく割戻金と認められるものは現在のところボリュームディスカウントだけだとしている。
品目を特定した数量の実績と見込みを期間で比べた資料は、この基準に沿った材料になる。
発注前の値引きと発注後の減額は別の話
取適法は、代金を決める時点の問題と、決めた後に引く問題を分けている。テキストは、買いたたきは発注する時点で生ずるもの、代金の減額はいったん決定された額を事後に減ずるものと整理する。
発注後の減額は名目を問わず違反になる。条文は受託側の責めに帰すべき理由がないのに代金の額を減ずることを禁じており、テキストは「歩引き」や「リベート」等の減額の名目、方法、金額の多少を問わず、発注後いつの時点で減じても違反になるとしている。過去に違反とされた名目には、歩引き、仕入歩引、基本割戻金、販売奨励金、協賛金、値引き、一括値引き、原価低減、コストダウン協力金、支払手数料、物流手数料、センターフィー、管理料などが並ぶ。あらかじめ契約書で歩引き5%を差し引くと合意していても問題になる。減じた場合は、その額に年率14.6%を乗じた遅延利息の支払義務が生じる。
単価改定を過去の発注分に遡って適用することも減額に当たる。7月1日に「本年4月1日発注分から新単価を適用する」と合意して実際に遡らせれば、新単価の遡及適用として問題になる。
取適法が適用されるのは、取引の内容と当事者の規模の両方が条件を満たす場合だ。物品の製造委託では、資本金3億円超の法人が3億円以下の法人または個人に委託する場合と、資本金1千万円超3億円以下の法人が1千万円以下の法人または個人に委託する場合が対象になる。資本金基準が適用されない場合は、常時使用する従業員300人超と300人以下の区分で判断される。
取引の内容の線引きは建材でも分かれる。テキストは、規格品や標準品を購入することは原則として「委託」に当たらないが、規格品や標準品であっても一部でも自社向けの加工等をさせる場合には当たるとしている。製造委託に該当する例には「建売業者(ハウスメーカー)が、販売する建売物件に使用する建築資材の製造を建設資材メーカーに委託すること」が挙がっている。カタログ品を在庫から買うだけなら対象外、仕様を指定して作らせれば対象、という分かれ方になる。
材工で頼むときは建設業法が効く
材料と施工をまとめて専門工事業者に頼む形は売買ではなく請負契約で、建設業法第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)が働く。国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン(第12版、令和8年1月)は、違反となるおそれがある行為事例として次を挙げる。
| 行為事例 | 中身 |
|---|---|
| 予算額のみを基準にした締結 | 自らの予算額だけを基準に、協議を行うことなく下請の見積額を大幅に下回る額で契約した場合 |
| 取引上の示唆を伴う値下げ | 契約しない場合は今後の取引で不利な扱いをする可能性を示唆し、従来の取引価格を大幅に下回る額で契約した場合 |
| 契約後の一方的減額 | 取り決めた代金を契約後に一方的に減額した場合 |
| 端数処理と称した減額 | 合意することなく、端数処理と称して一方的に減額して契約した場合 |
| 法定福利費の削除 | 見積書に法定福利費が明示されているのに尊重せず、これを削除した金額で契約した場合 |
| 単価の一方的提示 | 契約単価を一方的に提示し、合意することなくそれで積算した額で契約した場合 |
支払時に諸費用を差し引く赤伝処理は、行うこと自体が直ちに違法になるわけではない。ガイドラインは、内容や差し引く根拠について元請と下請双方の協議と合意が必要で、その内容や差引額の算定根拠を見積条件と契約書面に明示する必要があるとする。明示がなければ、見積条件は第20条第3項、契約書面は第19条の違反になる。販売促進名目の協力費など根拠が不明確な費用の差引きや、実費より過大な差引きは第19条の3に違反するおそれがある。
契約後に資材の購入先を指定する行為にも規制がある。第19条の4は、契約締結後に注文者が使用資材やその購入先を指定して購入させ、請負人の利益を害することを禁じている。ガイドラインは、指定によって予定より高い価格で購入することになった場合や、既に購入していた資材を返却せざるを得ず、従来の販売店との取引関係が悪化した場合を利益を害する例に挙げる。契約前に見積条件として指定を示していれば、下請はそれを織り込んで見積もれるため対象外になる。
価格を据え置くだけでも説明が要る
価格を据え置く判断にも、協議と回答の手順が伴う。公正取引委員会は、労務費や原材料価格、エネルギーコストの上昇分を取引価格に反映せず据え置くことについて、次の2つが買いたたきや優越的地位の濫用の要件の1つに該当するおそれがあると明確化している。建設業法令遵守ガイドライン第12版もこれを引いている。
コストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場で明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。もう1つは、相手が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面や電子メール等で回答することなく、従来どおりに据え置くことになる。
コストの上昇をどう測るかも示されている。取適法のテキストは、市価の把握が困難な場合に、給付に係る主なコストの著しい上昇を「最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料」から把握できるとき、据え置かれた代金の額を著しく低い額として扱うとする。建材なら日銀の企業物価指数の類別がこの公表資料に当たる。直近の数字は企業物価6月速報、木材・木製品は前年比8.0%上昇にまとめている。
建材・住宅設備はどれだけ通せているか
交渉の場で相手が今どこまで転嫁できているかは、中小企業庁の調査で業種別に出ている。2026年3月の価格交渉促進月間フォローアップ調査は、受注側中小企業30万社に配布し、69,625社が回答した(発注側企業数は延べ91,233社)。結果は2026年6月26日に公表された。
全体の価格転嫁率は54.2%で、前回から約1ポイント上がった。価格交渉が行われた割合は90.7%。コスト要素別では原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%だった。交渉はしたがコスト上昇分の全額の転嫁には至らなかった企業のうち、発注企業から「納得できる説明があった」と答えた企業は約6割。受注企業の取引階層が深くなるほど転嫁の割合が低くなる傾向も続いている。
| 業種 | 受注側として通せた転嫁率 | 発注側として応じた転嫁率 |
|---|---|---|
| 全体 | 54.2% | 54.2% |
| 卸売 | 62.9%(5位) | 54.6%(15位) |
| 建設 | 52.3%(17位) | 53.0%(18位) |
| 建材・住宅設備 | 54.4%(14位) | 48.9%(25位) |
順位は32業種中。建材・住宅設備は、受注側として通せた率が前回の48.2%から6.2ポイント上がった一方、発注側として応じた率は48.9%で下から8番目にとどまる。発注企業の業種別に集計した価格交渉の平均点でも、建材・住宅設備は6.93点で24位(全体7.39点、建設7.82点、卸売7.31点)だった。
交渉に持っていく材料
引き合いを出す前と、返ってきた見積を比べるときに使う。
| # | 用意するもの |
|---|---|
| 1 | 品番、数量、納入場所、希望納期を確定した引き合い条件 |
| 2 | 掛け率提示を正味価格に直した現行単価 |
| 3 | リベートの供与基準(対象品目、期間、率、精算時期)の書面 |
| 4 | 仕切値からリベートを引いた実質単価と実効掛け率 |
| 5 | 品目を特定した数量の実績と見込み(前年同期間との比較) |
| 6 | メーカーの定価改定の予定と実施日 |
| 7 | 仕入原価の動きを示す公表統計(企業物価指数の該当類別) |
| 8 | 値引きを発注前の単価決定として確定させる段取り |
条件をそろえて複数社に出す手順は建材の相見積もりの取り方に、定価改定の実施日は値上げ・価格改定データベースにまとめている。
値引きは発注前に単価として決めれば交渉、発注後に引けば減額になる。同じ金額でも、決める順序で法律上の扱いが変わる。
確認先: 流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(公正取引委員会)、中小受託取引適正化法テキスト(公正取引委員会・中小企業庁)



