現場に届いた建材を返せるかどうかは、誰の責めで返すのか、いつ気づいたのか、受け取ったときに検査したのかで決まる。このうち検査は、やらずに済ませると後から不適合が見つかっても返品も代金減額も通らなくなる分岐点になる。
買主の都合による返品に法律上の根拠はない
通信販売で買った商品は、引渡しを受けた日から8日を経過するまで申込みの撤回か契約の解除ができる(特定商取引法15条の3第1項)。販売業者が撤回についての特約を広告に表示していれば、この限りではない。返送に要する費用は購入者の負担になる(同条2項)。
この制度は、営業のために、または営業として締結する売買契約には適用されない(同法26条1項1号)。工務店や商社が仕事で仕入れた建材は対象の外で、8日ルールを持ち出す余地がない。
契約が成立した後は、債務不履行などの解除事由がない限り、一方の意思だけで契約を消せない。相手が同意する場合、数量を減らす方向は契約の一部合意解除、増やす方向は発注の追加として処理する。この整理は経済産業省の建材・住宅設備産業取引ガイドライン(平成20年3月策定、令和7年12月最終改訂)が明記している。
受領したら遅滞なく検査する
商人間の売買では、買主は目的物を受領したら遅滞なく検査しなければならない(商法526条1項)。検査で種類、品質、数量の不適合を見つけたときは、直ちに売主へ通知しないと、追完の請求も代金の減額も損害賠償も契約の解除もできなくなる(同条2項)。
直ちに発見できない種類または品質の不適合は、受領後6か月以内に発見したときに限って同じ扱いを受ける。6か月を過ぎてから見つけた不適合は請求の対象から外れる。この制限が働かないのは、売主が不適合を知っていた場合だけ(同条3項)。
商人でない相手との売買なら民法が働き、不適合を知った時から1年以内に通知すればよい(民法566条)。商人どうしの建材取引は、この1年より短い期限で動く。
| 場面 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 商人間の売買で、検査して見つけた不適合 | 直ちに通知 | 商法526条2項 |
| 商人間の売買で、直ちに発見できない種類・品質の不適合 | 受領後6か月以内に発見し通知 | 商法526条2項 |
| 商人でない相手との売買 | 不適合を知った時から1年以内に通知 | 民法566条 |
| 売主が不適合を知っていた場合 | 期間の制限なし | 商法526条3項、民法566条ただし書 |
期限内に通知できれば、修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しのいずれかで追完を請求できる(民法562条1項)。売主の側は、買主に不相当な負担を課さない範囲で別の方法に替えられる。相当の期間を定めて追完を催告しても履行がないときは、不適合の程度に応じた代金の減額を請求できる(同563条1項)。追完が不能なとき、売主が追完の拒絶を明確に示したときは、催告なしで減額を請求できる(同条2項)。
引渡しの後に、双方の責めによらない事由で建材が滅失または損傷した場合、買主は代金の支払いを拒めない(民法567条1項)。現場に置いた材料が傷んだときの負担は、引渡しが済んでいるかどうかで切れる。
特注品を発注した取引にかかる取適法
2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)に変わった。令和7年法律第41号による改正で、従業員基準の追加や協議に応じない一方的な代金決定の禁止が入っている。
適用の分かれ目は、購買契約か製造委託か。規格品や標準品として広く市販されているものを買うのは購買契約で、法の対象にならない。規格品であっても仕様等を指定して製造を委託すれば製造委託にあたる、というのがガイドラインの区別。特注色のサッシや寸法を指定した加工材は後者に入る。
対象になる組み合わせは、資本金3億円超の法人が個人または資本金3億円以下の法人へ製造委託等をする場合と、資本金1000万円超3億円以下の法人が1000万円以下へ委託する場合。資本金基準が適用されないときは従業員基準が働き、常時使用する従業員300人超の法人が300人以下へ委託する場合が入る。
建設工事の下請は取適法から除かれ、建設業法が受け持つ。取付工事の委託は対象外で、製造の委託部分だけが条件を満たせば対象になる。商社が間に入る取引では、注文書の取次ぎや代金の請求といった事務手続の代行にとどまるなら商社は当事者にならない。製品仕様の決定や外注先の選定に関与していれば、発注者との間では商社が中小受託事業者、外注先との間では商社が委託事業者になる。
返品できる期間は検査のやり方で変わる
取適法がかかる取引では、受託者の責めに帰すべき理由がないのに受領後の物品を引き取らせることが禁じられる(5条1項4号)。例外は二つで、受領後速やかに引き取らせる場合と、ロット単位の抜取検査を行っている継続的な取引で最初の代金支払時までに引き取らせる場合に限られる。
| 検査のやり方 | 不適合の性質 | 返品できる期間 |
|---|---|---|
| 自社で受入検査 | 直ちに発見できる | 受領後速やかに(不良品のみ) |
| 自社で受入検査 | 直ちに発見できない | 受領後6か月以内。一般消費者に6か月を超える保証期間を定めている場合は最長1年以内 |
| ロット単位の抜取検査 | 合格ロット中の不良品 | 受領後の最初の代金支払時まで。継続取引で、返品条件の事前合意と発注時の明示との関連付けが要る |
| 検査を書面で受託者に委任 | 受託者の検査に明らかな過失 | 受領後6か月以内 |
| 検査を省略、または自社でも受託者にも検査させていない | ー | 返品不可 |
直ちに発見できる不適合を、検査期間を意図的に延ばしてから返品するのも認められない。発注後に検査基準を恣意的に厳しくし、従来なら合格だった物品を不合格として返すのも同じ。委託内容が発注時に明示されていない、あるいは検査基準が明確でないために給付が委託内容と異なることが明らかでない場合も、委託内容と異なることを理由にした返品は通らない。施主の仕様変更を理由に受託者へ返品する行為は、不当な返品にあたる。
公正取引委員会と中小企業庁のテキストが挙げる違反行為事例には、シーズン終了時点の売れ残りの引き取らせ、店舗の商品入替えを理由とした返品、受領から10か月後に不適合を理由とした引き取らせが並ぶ。受領後にやり直しをさせられる期間は、直ちに発見できない不適合について受領後1年以内(5条2項3号)。
受領そのものを拒むのも禁止行為(5条1項1号)。受託者の責めに帰すべき理由があるとして拒めるのは、給付の内容が明示された委託内容と異なる場合と、明示された納期に給付が行われない場合の二つだけ。ガイドラインが建材で挙げる事例は、天候や工事の進捗により現場で受領されず持ち帰りになったケース、販売店の指示でゼネコンの現場に直接納品してその現場の都合で受領を拒まれたケース、発注者の販売先が倒産したことを理由に定めた納期に受け取らなかったケース。
キャンセルの費用は誰が持つか
受領前の発注取消は、給付内容の変更として扱われる。受託者の責めがないのに取消や内容変更を行い、受託者の利益を不当に害してはならない(5条2項3号)。
受託者が承諾の意思表示をする前なら、民法上の申込みの撤回として認められる場合がある。ただし受託者が材料を手配するなど契約の成立を前提とした行動を始めていれば契約の成立が認められることがあり、発注書面を出した直後の撤回でない限り取消は通りにくい。
ガイドラインの取引事例には、生産着手前、生産着手後、納入時とキャンセルの時期で対応価格をルール化して請求している例がある。時期が遅いほど他の製造工程への影響が大きいという理屈で、負担の目安を先に決めておく形。取引上優越した地位にある側が不当に不利益を押し付ける中身でルール化すると、優越的地位の濫用にあたるおそれがある(独占禁止法2条9項5号)。
取引先の規定で見る項目
建材の通販は規定を公開している。見る箇所は、契約が成立する時点、買主都合の返品の可否、不良を伝える期限、費用の負担の4つ。
| 確認項目 | ミラタップ(旧サンワカンパニー) | アウンワークス | モノタロウ |
|---|---|---|---|
| 契約成立と注文後のキャンセル | 規定に記載なし | 受注処理を確定した時に売買契約が成立。確定後ただちに出荷処理を行うため注文後のキャンセルと変更は不可 | 規定に記載なし |
| 買主都合の返品 | 受けない | 購入手続き完了以後は受けない | 法人と個人事業主は納品書記載の出荷日より2週間以内 |
| 不良を伝える期限 | 引渡し後8営業日以内 | 商品に瑕疵がある場合は直ちに連絡 | 規定に記載なし |
| 返品を受けない類型 | 顧客都合の全て | 購入手続き完了後の全て | 返品不可の表示がある商品、パッケージ開封後、一度試された商品、加工された商品 |
| 費用の負担 | 不良による返品・交換の送料は同社負担 | 会員の都合で受領に応じない場合は違約金として商品相当額 | 顧客都合の返品に伴う配送料等は顧客負担 |
ミラタップが返品・交換を受けるのは4条件を満たすときに限られる。引渡しの時点で傷や破損や汚損や故障の不良があったこと、引渡し後8営業日以内に連絡があったこと、写真や現物確認で同社が状況を判断できること、同社が不良と認めたこと。モノタロウブランド商品では、出荷日から365日以上経過した商品と、加工された商品と、複数入りで2個以上使用された商品が対象から外れる。
契約が成立する時点が早い相手ほど、発注書を出してから止められる時間は短い。アウンワークスのように受注処理の確定と同時に出荷処理へ進む規定では、その時間はほぼ残らない。



