倉庫に灯油をドラム缶1本入れた時点で、消防署長への届出が要る。灯油は消防法の第四類第二石油類(非水溶性液体)で指定数量は1,000リットル。東京都の火災予防条例はその5分の1以上を届出の対象にしているので、200リットルのドラム缶1本で線に届く。届出は貯蔵を始める10日前まで、始める前に消防署長の検査もある。
在庫の話は置き場と資金繰りに寄りがちだが、量そのものに法律の線が引かれている品目がある。持つ側が決める数字は、いつ発注をかけるか、期末に何回数えるか、売れ残りをいつ帳簿から落とすか。それぞれ決まりと計算の型がある。
発注点をどこに置くか
補充発注のやり方は2つに分かれる。在庫が一定量まで減ったら決まった量を頼む定量発注法と、発注日を決めて毎回必要量を計算する定期発注法。中小機構のJ-Net21は、品切れの防止と過剰在庫の回避を両にらみで補充の仕組みを組む前提で、この2つを挙げている。
定量発注で引き金になる水準が発注点。調達にかかる日数のあいだに出ていく量に、読み違えたときの緩衝分を足した数になる。
発注点 = 1日あたりの平均出庫量 × 調達リードタイム(日) + 安全在庫
安全在庫:出庫予測の外れ、作業ミス、発注漏れ、保管ミスで在庫が減りすぎたときでも品切れを起こさないための持ち分。J-Net21は、発注日から納品日までのリードタイム内で出庫が速くなった場合を想定して数量を決めるとしている。リードタイムが長い品目ほど、同じ品切れ許容度でも安全在庫は厚くなる。読み違えが効く期間がそのぶん長いからだ。
式に数字を入れると次のようになる。値は当てはめ例で、1日平均出庫は自社の出庫台帳、リードタイムは直近の発注から入荷までの実績日数を使う。
| 品目 | 1日平均出庫 | 調達リードタイム | 安全在庫 | 発注点 |
|---|---|---|---|---|
| せっこうボード | 40枚 | 10日 | 150枚 | 550枚 |
| シーリング材 | 12本 | 5日 | 40本 | 100本 |
| 造作用ビス | 3箱 | 3日 | 10箱 | 19箱 |
金額の側から上限を置くなら、J-Net21は年間平均適正在庫を「年間販売高予想 ÷ 年間予定商品回転率」で示している。持ち高が増えると出ていく費用は仕入代金だけではない。倉庫のコストと減価償却費、破損や減耗、借入資金の利息、保険料、運搬費用、返品費用がJ-Net21の挙げる内訳になる。
在庫の値段をいくらで載せるか
購入した棚卸資産の取得価額には、購入の代価のほか、消費または販売の用に供するために直接要した費用が全部入る(法人税基本通達5-1-1)。引取運賃が単価に効く建材では、この扱いが期末の在庫評価額を動かす。
ただし例外がある。買入事務や検収、整理、選別、手入れに要した費用、販売所等から販売所等へ移すための運賃や荷造費、特別の時期に販売するため長期にわたって保管するための費用は、合計額が購入の代価のおおむね3%以内なら取得価額に算入しないことができる。少額かどうかの判定は事業年度ごと、種類、品質、型の別を同じくする棚卸資産ごとにできる。長期保管以外の保管費用(保険料を含む)も取得価額に入れないことができる。
不動産取得税、固定資産税と都市計画税、登録免許税、借入金の利子は、棚卸資産の取得や保有に関連して払ったものでも取得価額に算入しないことができる(同5-1-1の2)。
単価が決まらないまま期末が来ることもある。取得した事業年度に購入の代価が確定していないため見積価額で計算した場合、その後の事業年度で代価が確定したときは、確定額と見積価額の差額を確定した日の属する事業年度の益金または損金に入れる(同5-1-2)。差額が多額なら原価差額の調整方法に準じて調整する。値上げ告知から実施までの端境で仕入単価が固まらない場面が、これに当たる。
評価方法は届け出て選ぶ。届け出なかった場合と、届け出た方法で評価しなかった場合は、最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法になる(法人税法施行令31条1項)。届出の提出時期は、普通法人を設立した場合は設立第1期の確定申告書の提出期限まで。事業の種類を新たに始めたり変更したりしたときも、その事業年度の確定申告書の提出期限までに出す。
棚卸は年に何回必要か
法人税基本通達5-4-1が下限を決めている。棚卸資産については各事業年度終了の時において実地棚卸をしなければならない、というのが原則。年1回の期末実地棚卸が最低ラインになる。
代替も認められている。同通達は、業種、業態、棚卸資産の性質に応じ、実地棚卸に代えて部分計画棚卸その他の合理的な方法で期末の在庫を算定している場合は、継続適用を条件に認めるとしている。品目を分けて期中に回していく循環棚卸に切り替えるなら、方法を決めて続けることが条件になる。
数える目的は税務だけではない。J-Net21は棚卸の目的として、帳簿と現品の照合、過剰商品の把握、商品減耗の管理を挙げている。帳簿在庫と現物が合わない原因を潰さないまま発注点だけ精密にしても、引き金を引く数字が間違ったままになる。
売れ残りを損金にできる事実、できない事実
棚卸資産の評価損は、事実の種類で可否が決まる。法人税法施行令68条1項1号が挙げるのは3つだけ。イが「当該資産が災害により著しく損傷したこと」、ロが「当該資産が著しく陳腐化したこと」、ハが「イ又はロに準ずる特別の事実」。この事実が生じたことで資産の価額が帳簿価額を下回ったものが対象になる。
ロの「著しく陳腐化」は、棚卸資産そのものに物質的な欠陥がないのに、経済的な環境の変化でその価値が著しく減り、価額が今後回復しないと認められる状態を指す(法人税基本通達9-1-4)。同通達が例示するのは、季節商品の売れ残りで今後通常の価額では販売できないことが既往の実績その他の事情から明らかな場合と、用途はおおむね同じだが型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことで通常の方法により販売できなくなった場合。
ハの「準ずる特別の事実」には、破損、型崩れ、たなざらし、品質変化により通常の方法によって販売することができないようになったことが含まれる(同9-1-5)。
通らない側もはっきり書かれている。棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、施行令68条1項1号に掲げる事実に該当しない(同9-1-6)。相場が落ちて仕入値割れになった、建値が下がった、というだけでは評価損は立たない。
建材の場面に当てはめると次のようになる。
| 倉庫で起きたこと | 該当する事実 | 可否 |
|---|---|---|
| 廃番になり、後継品が出て通常の方法では売れなくなった | ロ(9-1-4(2)の新製品発売による陳腐化) | 通る |
| 台風や漏水で在庫が著しく損傷した | イ(災害による著しい損傷) | 通る |
| 長期在庫で化粧材が日焼けし、変色した | ハ(9-1-5のたなざらし、品質変化) | 通る |
| 開梱と積み替えで建具の角が潰れた | ハ(9-1-5の破損、型崩れ) | 通る |
| 相場が下がって仕入値を割った | 単なる物価変動(9-1-6) | 通らない |
| メーカーが建値を引き下げた | 建値の変更(9-1-6) | 通らない |
評価損として落とすには、事実が生じたうえで評価換えをし、損金経理により帳簿価額を減額する必要がある。廃番在庫を抱えた後の代替品の探し方と既契約物件の扱いは廃番・供給停止への対応手順にまとめている。
量に法律の線がある品目
塗料、シンナー、接着剤、灯油は消防法の危険物に当たることがある。指定数量以上は、許可を受けた製造所、貯蔵所、取扱所以外の場所で貯蔵したり取り扱ったりできない(消防法10条1項)。所轄消防長または消防署長の承認を受けて10日以内の期間だけ仮に貯蔵する場合は例外になる。
品名または指定数量の異なる2以上の危険物を同じ場所に置くときは合算される。それぞれの数量を指定数量で除した商の和が1以上になれば、その場所は指定数量以上を貯蔵しているとみなされる(同10条2項)。
指定数量未満の基準は市町村条例が定める(同9条の4)。東京都火災予防条例は、指定数量の5分の1以上指定数量未満を少量危険物と呼び、遮光や換気、計器の監視などの技術上の基準を課している(同条例31条)。合算の考え方もここに引き継がれ、数量を指定数量の5分の1の数量で除した商の和が1以上なら少量危険物を扱っているとみなされる(同32条)。少量危険物貯蔵取扱所を設ける者は、設置しようとする日(工事を伴う場合は着手日)の10日前までに消防署長へ届け出て、貯蔵または取扱いを始める前に位置、構造、設備の検査を受ける(同58条)。
第四類の指定数量と、東京都で届出線になる5分の1の量は次のとおり。
| 品名 | 指定数量 | 5分の1(東京都の届出線) |
|---|---|---|
| 特殊引火物 | 50L | 10L |
| 第一石油類(非水溶性液体) | 200L | 40L |
| 第一石油類(水溶性液体) | 400L | 80L |
| アルコール類 | 400L | 80L |
| 第二石油類(非水溶性液体) | 1,000L | 200L |
| 第二石油類(水溶性液体) | 2,000L | 400L |
| 第三石油類(非水溶性液体) | 2,000L | 400L |
| 第三石油類(水溶性液体) | 4,000L | 800L |
| 第四石油類 | 6,000L | 1,200L |
| 動植物油類 | 10,000L | 2,000L |
どの品名に入るかは引火点で決まる。消防法別表第一の備考が、第一石油類を1気圧で引火点21度未満(アセトン、ガソリンなど)、第二石油類を21度以上70度未満(灯油、軽油など)、第三石油類を70度以上200度未満(重油、クレオソート油など)、第四石油類を200度以上250度未満(ギヤー油、シリンダー油など)、動植物油類を引火点250度未満と定めている。アルコール類は1分子を構成する炭素の原子数が1個から3個までの飽和一価アルコール。手元の製品の引火点はSDSに載っている。
塗料類には除外の余地がある。第二石油類から第四石油類までの定義は、いずれも「塗料類その他の物品であつて、組成等を勘案して総務省令で定めるものを除く」と書かれている。製品ごとの判定は組成によるので、SDSの引火点で当たりを付けたうえで、所轄の消防署が判断の窓口になる。
期末までに回すチェックリスト
| # | 確認項目 |
|---|---|
| 1 | 主要品目の1日平均出庫量を出庫台帳から出し、直近の実績リードタイムと掛け合わせて発注点を置いた |
| 2 | 安全在庫を品目ごとに数量で決め、リードタイムの長い品目を厚くした |
| 3 | 引取運賃を取得価額に入れる範囲を決め、付随費用が購入の代価のおおむね3%以内かを種類等ごとに判定した |
| 4 | 仕入単価が未確定の在庫を見積価額で計上し、確定後に差額を調整する段取りを決めた |
| 5 | 棚卸資産の評価方法の届出を出しているか確認した(未提出なら最終仕入原価法による原価法になる) |
| 6 | 期末の実地棚卸を組んだ。循環棚卸に代えるなら方法を決めて継続適用にした |
| 7 | 売れ残りを、廃番と新製品発売による陳腐化、破損や品質変化、単なる値下がりに仕分けた |
| 8 | 評価損を立てる在庫について、評価換えと損金経理の処理を経理と詰めた |
| 9 | 塗料や接着剤、灯油の保管量を品名ごとに集計し、指定数量に対する商の和を計算した |
| 10 | 商の和が届出線を超える置き場について、消防署への届出と検査の状況を確認した |
発注点を置く前提になる調達リードタイムは、相見積もりの段階で条件として取りに行ける。取り方は建材の相見積もりの取り方に、値上げ告知から実施日までの発注の詰め方は値上げ下の発注タイミングにまとめている。



