廃番になって動かない建材の在庫は、会計では売れる値段まで簿価を落とす。その損が税務でも通るかは、期末評価に低価法を届け出ているかどうかで最初に分かれる。届け出ていない会社の期末評価は原価法のままなので、時価が下がったという理由だけでは評価額が動かない。

正味売却価額:売価(購買市場と売却市場が区別される場合は売却市場の時価)から見積追加製造原価と見積販売直接経費を引いた額(企業会計基準第9号第5項)。

低価法:原価法で算出した評価額と事業年度終了の時における価額のうち、いずれか低い価額を評価額とする方法(法人税法施行令28条1項2号)。

出発点は法人税法29条1項。期末に有する棚卸資産の価額は、政令の評価方法のうちその法人が選定した方法で評価した金額とし、選定しなかった場合と選定した方法で評価しなかった場合は政令で定める方法による。つまり期末の在庫にいくらの値を付けるかは、決算で判断する事項ではなく、事前に届け出た方法で決まる。

選べる評価方法は原価法6種と低価法

施行令28条1項が列挙する方法は次の7つ。取得価額の算出方法が6つあり、その上に低価法が乗る形になっている。

方法 条文上の内容
個別法 期末棚卸資産の全部について、その個々の取得価額をその取得価額とする
先入先出法 種類、品質、型の同じものについて、期末から最も近い時に取得したものから順次成るものとみなす
総平均法 期首に有していた取得価額の総額と当期に取得した取得価額の総額の合計を、総数量で除する
移動平均法 取得のたびに平均単価を改定したものとみなし、期末から最も近い時の改定単価をとる
最終仕入原価法 種類等の同じものについて、期末から最も近い時に取得したものの1単位当たり取得価額をとる
売価還元法 種類等または通常の差益の率の同じものについて、通常の販売価額の総額に原価率を乗じる
低価法 上の原価法で評価した価額と、事業年度終了の時における価額のうち低い方をとる

個別法には制限がある。通常一の取引によって大量に取得され、かつ規格に応じて価額が定められている棚卸資産については、個別法(およびそれを基礎とする低価法)を選定できない(施行令28条2項)。要件は大量取得と規格に応じた価額決定の二つで、両方に当たるものが対象になる。

選定は在庫全体で1つではない。施行令29条1項は、事業の種類ごとに、かつ商品または製品(副産物および作業くずを除く)、半製品、仕掛品(半成工事を含む)、主要原材料および補助原材料、その他の棚卸資産の区分ごとに選定しなければならないと定める。仕入れて売る商品と、加工に回す原材料で別の方法を選ぶ形が条文上できる。

会計側の並びは少し違う。企業会計基準第9号第6-2項が挙げるのは個別法、先入先出法、平均原価法(総平均法または移動平均法)、売価還元法の4つで、最終仕入原価法は入っていない。中小企業の会計に関する指針28項は、期間損益の計算上著しい弊害がない場合には最終仕入原価法を用いることもできるとしている。売価還元法は「取扱品種の極めて多い小売業等」に適用される方法と位置づけられ(第6-2項(4))、どの方法も区分ごとに選択して継続適用が要る(第6-3項)。

届出と変更の期限

場面 期限 根拠
新たに設立した法人の評価方法の届出 設立第1期の確定申告書の提出期限まで(仮決算の中間申告書を出すときはその提出期限まで) 施行令29条2項1号、C1-25
新たに他の種類の事業を開始、または事業の種類を変更 その日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで 施行令29条2項5号、C1-25
届出をしなかった場合、届出た方法で評価しなかった場合 最終仕入原価法により算出した取得価額による原価法 施行令31条1項
選定した方法の変更 変更しようとする事業年度開始の日の前日までに承認申請 施行令30条2項、C1-29
申請が却下される場合 現によっている方法の採用から相当期間を経過していないとき、変更後の方法では所得金額の計算が適正に行われ難いと認めるとき 施行令30条3項
上の7つ以外の方法を使う場合 採用しようとする方法の内容、その方法を採用しようとする理由、事業の種類と資産の区分等を記載した申請書を出し、納税地の所轄税務署長の承認を受ける 施行令28条の2第1項・2項
みなし承認 申請に係る事業年度終了の日(中間申告書を提出すべき法人は開始の日以後6月を経過した日の前日)までに承認も却下もなければ、その日に承認があったものとみなす 施行令30条5項

期限が事業年度開始の日の前日なので、当期の滞留在庫を低価法で処理する選択は当期に入ってからでは取れない。決算の数字を見てから切り替える余地はない。

会計が簿価を切り下げる条件

企業会計基準第9号は、すべての企業における棚卸資産の評価方法、評価基準、開示について適用される(第3項)。通常の販売目的で保有する棚卸資産は取得原価を貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合は、その正味売却価額を貸借対照表価額とする。差額は当期の費用(第7項)。税務の届出と違い、こちらは要件に当たれば切り下げる。

売価が見えないときの代わりも決まっている。売却市場において市場価格が観察できないときは合理的に算定された価額を売価とし、これには期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合が含まれる(第8項)。原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合は、継続適用を条件に再調達原価(最終仕入原価を含む)によれる(第10項)。判断と切下げは原則として個別品目ごとで、複数を一括りにした単位が適切と判断されるときは継続適用を条件にその方法(第12項)。

再調達原価:購買市場と売却市場が区別される場合における購買市場の時価に、購入に付随する費用を加算したもの(企業会計基準第9号第6項)。

長期在庫には別の処理が用意されている。営業循環過程から外れた滞留または処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合は、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて次のいずれかで処理する(第9項)。

代替する方法 内容
処分見込価額まで切り下げる ゼロまたは備忘価額を含む
規則的に切り下げる 一定の回転期間を超える場合に、規則的に帳簿価額を切り下げる

回転期間の基準を社内で決めて機械的に落とす形が、この(2)に当たる。売れる値段を1品ずつ見積もれない量の廃番在庫を抱えた倉庫で、算定の手間を回転期間の基準に置き換える処理になる。

売価還元法を採っている場合も、期末の正味売却価額が帳簿価額より下落していればその正味売却価額による。ただし値下額等が売価合計額に適切に反映されている場合は、値下額と値下取消額を除外した原価率で求めた帳簿価額を、切下額を反映したものとみなせる(第13項)。

前期の切下額を翌期に戻すかどうかも選択制。戻入れを行う洗替え法と行わない切放し法のいずれかを棚卸資産の種類ごとに選択適用でき、売価の下落要因を区分把握できる場合は物理的劣化、経済的劣化、市場の需給変化の要因ごとにも選択適用できる。いったん採用した方法は原則として継続適用(第14項)。

中小企業の会計に関する指針を使う会社の線引きも確認しておく。27項(1)は、期末における時価が帳簿価額より下落し、かつ金額的重要性がある場合に時価をもって貸借対照表価額とし、その時価は原則として正味売却価額(27項(2))。加えて災害により著しく損傷したとき、著しく陳腐化したとき、これに準ずる特別の事実が生じたときは、その事実を反映させて帳簿価額を切り下げなければならない。どこから切り下げるかの数値基準は置かれていない。有価証券では「50%程度以上下落」と割合が示されているのに対し、棚卸資産は種類や市場の状況等の特性を勘案して個別に判断する(27項(3))。

税務で下がる二つの経路

税務で在庫の値を下げる経路は、評価方法によるものと評価換えによるものに分かれている。根拠になる条文が別なので、要件も判定の単位も別に決まる。

低価法による経路 評価換えによる経路
根拠 法人税法29条1項、施行令28条1項2号 法人税法33条2項、施行令68条1項1号
要件 低価法を届け出て選定していること 災害による著しい損傷、著しい陳腐化、これらに準ずる特別の事実のいずれかが生じ、価額が帳簿価額を下回ったこと
経理処理 選定した評価方法による評価 評価換えをして損金経理により帳簿価額を減額
時価の意味 期末に売却するものとした場合に通常付される価額。算定は正味売却価額(法基通5-2-11) 使用収益されるものとしてその時に譲渡される場合に通常付される価額(法基通9-1-3)
判定の単位 種類等の同じものごと。事業の種類ごと、かつ施行令29条1項の資産の区分ごとの一括計算も認められる(法基通5-2-9) 種類等の異なるものごと、かつ施行令68条1項の事実の異なるものごと(法基通9-1-1(4))
値下がりだけのとき 低い方が評価額になる 物価変動、過剰生産、建値の変更等による低下は該当しない(法基通9-1-6)

低価法の時価について、通達5-2-11は「当該事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額」と定め、注で、算定に当たっては通常、商品または製品として売却するものとした場合の売却可能価額から見積追加製造原価(未完成品に限る)と見積販売直接経費を控除した正味売却価額によると示す。会計の正味売却価額と同じ形に寄せられている。

低価法は比べる相手が毎期あらためて取得価額になる。施行令28条1項2号が比較する相手は「原価法により評価した価額」なので、翌期も取得価額と期末時価を比べる。前期に落とした価額が翌期の比較の起点になるわけではなく、時価が戻れば評価額も戻る。

評価換えの側で通る事実と通らない事実の当てはめは、廃番と新製品発売による陳腐化、たなざらしや型崩れ、単なる値下がりの仕分けまで建材在庫の持ち方に表でまとめている。

会計で落とした額が税務で通らないとき

低価法を選定していない会社が会計基準どおりに正味売却価額まで切り下げ、その在庫が施行令68条1項1号の3事実に当たらない場合、切下額は損金にならない。法人税法33条1項が評価換えによる減額を損金不算入とし、同6項が、損金の額に算入されなかった資産についてはその事業年度以後の各事業年度の所得金額の計算上、帳簿価額はその減額がされなかったものとみなすと定める。会計の簿価は下がり、税務上の簿価は下がらない状態が続く。

この差は在庫ごとに残る。評価損否認金のある資産につき施行令68条1項の事実が生じたため、否認金の全部または一部を申告調整により損金の額に算入した場合には、その金額は評価損として損金経理をしたものとして取り扱う(法基通9-1-2)。廃番在庫を最終的に売るか処分するまで、その在庫の税務上の簿価は高いまま残る。

損益計算書での置き場所は3つに分かれる。

簿価切下額の性格 表示区分
下の2つ以外のもの 売上原価
棚卸資産の製造に関連し、不可避的に発生すると認められるもの 製造原価
臨時の事象に起因し、かつ多額であるもの(重要な事業部門の廃止、災害損失の発生) 特別損失

特別損失に落とした場合は、洗替え法を適用していても当該簿価切下額の戻入れを行ってはならない(第17項)。切下額は、注記による方法または売上原価等の内訳項目として独立掲記する方法で示す(第18項。重要性が乏しい場合は除く)。中小企業の会計に関する指針29項も同じ3区分で、重要性のあるものは注記または売上原価等の内訳項目として表示することが望ましいとする。

期末前に決める順番

# 確認項目
1 事業の種類ごと、施行令29条1項の資産の区分ごとに、いまどの評価方法を届け出ているかを届出書の控えで確認した
2 低価法に変えるなら、変更承認申請を当該事業年度開始の日の前日までに出す段取りを組んだ
3 品目ごとの売価を、直近の販売実績か契約で取り決めた売価から取り、見積販売直接経費を引いて正味売却価額を出した
4 原材料等で再調達原価によるものを決め、継続適用の前提を経理と共有した
5 営業循環過程から外れた滞留品を抜き出し、処分見込価額まで切り下げるか、回転期間の基準で規則的に切り下げるかを決めた
6 洗替え法と切放し法のどちらを棚卸資産の種類ごとに採るかを決め、前期の方法と一致させた
7 施行令68条1項1号の3事実に当たる在庫(災害損傷、陳腐化、破損やたなざらし等)を、単なる値下がりの在庫と分けて集計した
8 税務で通らない切下額の加算額と、税務上の簿価を在庫ごとに追える形で残した
9 簿価切下額の表示区分(売上原価、製造原価、特別損失)と注記の有無を決めた

低価法を届け出ているかどうかは、決算のたびに悩む論点ではなく一度だけ決める論点。届出書の控えが出てこない会社は、最終仕入原価法による原価法で評価していることになる(施行令31条1項)。最終仕入原価法は種類等の同じものについて期末から最も近い時に取得した単価を当てる方法なので、何年も動いていない在庫には最後に仕入れたときの単価がそのまま残る。売れる値段が仕入値を割った在庫を多く抱える会社ほど、この一点の差が期末の在庫評価額に出る。

確認先: C1-25 棚卸資産の評価方法の届出、C1-29 変更の承認の申請