新しい商社から建材を仕入れると決まって、先に届くのは見積ではなく書類の束だ。取引基本契約書、履歴事項全部証明書、印鑑証明書、決算書、反社会的勢力ではないことの表明・確約書。ここに実印を押して初めて掛けで買えるようになり、押した内容がそのまま毎月買える上限と支払条件になる。
何を出すことになるか
大成建設ハウジングが公開している「取引開始に伴うお手続きについて」(2006年4月制定、2020年3月最終改訂)は、継続的な取引を始める相手に求める書類を全部並べている。同社は建材を買う側、相手は納める側なので、商社に口座を開く工務店とは立場が逆になる。それでも法人格と代表者と支払能力を書面で押さえるという狙いは同じで、そろえる書類は重なる。
| 書類 | 条件 | 対象 |
|---|---|---|
| 取引基本契約書 2部 | 契約印と割印を印鑑証明書と同じ実印で押す。割印は表と裏の2か所。うち1部に印紙4,000円を貼付し消印 | 必須 |
| 個別取引の注文に係る条件書 2部 | 実印で押印し、うち1部に印紙200円 | 工事請負のとき |
| 取引先情報登録シート | 本店住所、商号、代表者氏名、資本金は商業登記簿どおり。振込先、源泉徴収区分、消費税納税区分、建設業許可を記入 | 必須 |
| 建設業許可の写し | 許可行政庁が交付した「建設業の許可について(通知)」の写し | 工事請負のとき |
| 印鑑証明書 | 提出日から3か月以内に発行されたもの。複写不可 | 必須 |
| 反社会的勢力ではないことの表明・確約書 | 印鑑証明書と同じ実印 | 必須 |
| 商業登記簿謄本 | 現在事項全部証明書または履歴事項全部証明書でも可。発行から3か月以内。複写不可 | 法人 |
| 直近年度における決算報告書 | 提出日から1年以内の決算日における貸借対照表と損益計算書 | 法人 |
| 会社概要、組織図 | 書式は問わない | 法人 |
| 保証書 | 外装、防水、屋根葺材、外壁タイル工事、再塗装、再防水工事のいずれかを行う場合。実印を押す | 該当する取引 |
| 労災保険 特別加入証明書の写し | 労働保険事務組合への加入を証明する加入証や証明書 | 一人親方等 |
| 委任状 | 代表者以外が見積提出、契約締結、代金請求をする場合 | 必要に応じて |
印鑑証明書と商業登記簿謄本は、どちらも発行から3か月以内の原本で、複写は受け付けないと明記されている。
支払条件の欄は空欄のまま出す。同社の場合、支払区分は取引開始の手続きが完了した時点で確定し、契約書を返送するときに知らされる。書類を出す側が支払サイトを書き込む余地はない。
反社会的勢力との関係遮断は、平成19年6月19日の犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が示した方針で、表明・確約書の提出そのものを法令が義務づけているわけではない。同社はコンプライアンスの徹底のためとして、全ての取引先に提出を求めている。
支店長が見積提出から契約締結、代金請求までを回すなら、委任状を出して受任者に登録する。本社の代表者名義で基本契約を結び、地域ごとの支店長が個別契約を締結する形は、登録シートの受任者欄で処理される。
証明書の手数料と取り方
登記事項証明書と印鑑証明書は法務局で取る。手数料は令和7年4月1日からの額。
| 証明書 | 書面請求 | オンライン請求・送付 | オンライン請求・窓口交付 |
|---|---|---|---|
| 登記事項証明書(謄抄本) | 1通 600円 | 1通 520円 | 1通 490円 |
| 印鑑証明書 | 1件 500円 | 1件 450円 | 1件 420円 |
オンライン請求の使い勝手は2つの証明書で分かれる。法務省の案内では、登記事項証明書は何人も請求できるため電子署名が要らず、委任状の仕組みも用意されていない。印鑑証明書のほうは、請求書情報と添付書面情報に電子署名を付すための電子証明書をあらかじめ取得しておく必要がある。代理人が請求するなら請求書情報と委任状情報の双方に電子署名が要る。商業登記電子証明書を持っていない会社にとって、印鑑証明書は結局のところ窓口か郵送になる。
取引基本契約書に貼る印紙
取引基本契約書は国税庁の課税物件表で第7号文書の継続的取引の基本となる契約書にあたる。営業者の間で売買、売買の委託、運送、運送取扱い、請負に関する2以上の取引を継続して行うための契約書のうち、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法、再販売価格のいずれか1つ以上を定めるものが対象で、税額は1通4,000円。
除外が1つある。契約期間が3か月以内で、かつ更新の定めのないものは第7号文書から外れる。期間を定めない基本契約や、自動更新の定めがあるものはこの除外に入らない。
電子で締結すれば課税されない。国税庁の質疑応答事例は、建設工事を請け負う会社が注文請書を書面で作る代わりに電子署名を付した電磁的記録をメールで送る事例について、印紙税の課税対象は課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれないと回答している。ただし電子で送ったあとに現物を別途持参するなどして交付すれば、その現物に印紙税がかかる。
| 文書 | 号 | 印紙 |
|---|---|---|
| 取引基本契約書(期間3か月超、または更新の定めあり) | 第7号 | 4,000円 |
| 取引基本契約書(期間3か月以内かつ更新の定めなし) | 対象外 | 不要 |
| 単発の建材の売買契約書 | 不課税 | 不要 |
| 電磁的記録で締結し現物を交付しない | 対象外 | 不要 |
建設工事の請負契約書(第2号文書)の税額と軽減措置は材工共と材料のみの発注の分かれ目にまとめている。
審査で見られるもの
商社は提出書類だけで判断しない。外部の信用調査会社の評価を併せて見る。帝国データバンクの評点は、業歴、資本構成、規模、損益、資金現況、代表者、企業活力の7要素の合計を100点満点で表したもので、A(86〜100)、B(66〜85)、C(51〜65)、D(36〜50)、E(35以下)の5段階に区分される。業歴から資金現況までが定量、代表者と企業活力が定性の評価にあたる。
点数の感覚は学校のテストと違う。同社の解説は、40点台が最頻値で51点以上は2割もないとしたうえで、51点以上か50点以下かが最大の判断分岐だと書いている。C評価の下限が51点なので、この線はDとCの境目に重なる。評点が同じでも要素の内訳は企業ごとに違うため、内訳と評点の動きの両方を見るのが読み方だとも書かれている。
建設業許可のほうは誰でも確認できる。国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムは平成20年6月23日から運用されていて、建設業者については許可番号、商号、代表者名、本店所在地、支店所在地、資本金額、許可年月日、許可の有効期間、許可業種、兼業の有無、許可条件の有無が閲覧できる。新規の許可取得や許可内容の変更が検索システムに載るまでは概ね1か月程度かかるので、許可を更新した直後や業種を追加した直後は、システム上の情報が古いまま残る。
与信枠が決まる仕組み
帝国データバンクが公開している与信管理の解説(2010年5月1日更新)は、与信基準額(与信限度額)を4つの基準額の最小値として算出する形を示している。
| 基準額 | 計算の元 |
|---|---|
| 売上債権基準額 | 商社の売上債権残高の合計(期末)× 売上債権基準率 × 重み付け倍率 |
| 仕入債務基準額 | 取引先の推定仕入債務額 × 仕入債務基準率 × 重み付け倍率 |
| 財務上限基準額 | 商社の自己資本(または余裕資金)× 自己資本基準率 |
| 希望与信額 | 営業担当者が予測する最大の売上債権残高 |
同解説が挙げる例では、売上債権基準額370万円、仕入債務基準額1,110万円、財務上限基準額500万円、希望与信額400万円のうち、最小の370万円が与信基準額になる。
重み付け倍率は信用コストの考え方から出る。信用コストは平均して予想される損失発生額で、売上債権 × 倒産確率 × (1−回収率)で表される。一般の事業会社の間では倒れた取引先からほとんど回収できず、データもないため回収率を0%として計算されることが多い。倒産確率が1%から2%に上がった取引先で信用コストを据え置くなら、債権残高は半分にするしかない。リスクが2倍なら係数は2分の1になる。
仕入債務基準額は、取引先の仕入債務額が分からないときに年間売上高から推定する。年間売上高を12か月で割った月商に、業種別の仕入債務回転期間を掛ける。年商12億円で回転期間3か月なら推定仕入債務は3億円、仕入債務基準率10%と重み付け0.37で1,110万円という具合になる。申込書に書く年間売上高が、そのまま枠の計算材料に入る。
与信枠は買う側の信用だけでは決まらない。売上債権基準額と財務上限基準額は商社の売上債権残高と自己資本が変数で、希望与信額は担当営業が見込む年間販売高が変数になる。同じ決算書を同じ月に出しても、規模の違う2社の商社では枠が変わる。買う側が動かせる変数は、希望与信額の根拠になる年間発注見込みと、重み付け倍率に効く自社の評点に絞られる。
取引先の異変を追う側の実務は取引先の倒産に備える与信管理の型にある。
代表者の連帯保証を求められたとき
新設法人や業歴の浅い会社では、代表者個人の連帯保証を条件にされることがある。建材の掛け取引は納品のたびに債務の額が動くので、この保証は特定の債務ではなく、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする根保証になる。
民法465条の2は、保証人が法人でない根保証契約について、極度額を定めなければ効力を生じないと定める。極度額の定めは書面か電磁的記録でしなければ効力を生じない(同条3項が446条2項3項を準用)。契約書の連帯保証欄に極度額の記載がないまま署名押印しても、その保証は成立しない。
公正証書は要らない。465条の6が保証の効力の要件として公正証書を求めるのは、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証と、主たる債務の範囲に事業のための貸金等債務が含まれる根保証に限られる。貸金等債務は金銭の貸渡しまたは手形の割引を受けることによって負担する債務を指す(465条の3第1項)。建材の売買代金だけを保証の範囲とするなら、この手続きの外にある。手形の割引まで範囲に入る書式なら話が変わる。
465条の9は、主たる債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役やこれらに準ずる者、議決権の過半数を有する者などについて公正証書の規定を適用しないと定める。社長個人が自社の債務を保証する典型はここに入る。
保証人を頼む側にも義務がかかる。465条の10は、事業のために負担する債務の保証を個人に委託するとき、財産及び収支の状況、主たる債務以外に負担している債務の有無とその額と履行状況、他に提供する担保の有無とその内容を、委託を受ける者に提供しなければならないと定める。情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したために保証人が誤認して保証した場合で、そのことを債権者が知りまたは知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消せる。
申し込み前にそろえるもの
| 用意するもの | 条件 | 費用 |
|---|---|---|
| 履歴事項全部証明書(原本) | 発行から3か月以内。複写不可 | 600円(オンライン請求520円) |
| 代表者の印鑑証明書(原本) | 発行から3か月以内。複写不可 | 500円(オンライン請求450円。電子証明書が必要) |
| 直近年度の決算報告書 | 決算日が提出日から1年以内。貸借対照表と損益計算書 | 自社で用意 |
| 会社概要と組織図 | 書式自由 | 自社で用意 |
| 建設業許可通知の写し | 有効期間内。検索システムへの反映は変更から概ね1か月 | 自社で用意 |
| 実印 | 契約書、確約書、保証書に同じ印を押す | 印鑑証明書と一致 |
| 収入印紙 | 紙の取引基本契約書に貼る。電磁的記録なら不要 | 4,000円 |
| 委任状 | 代表者以外が契約締結や代金請求をする場合 | 自社で用意 |
| 年間の発注見込み額 | 希望与信額の根拠になる | 自社で用意 |
| 連帯保証の極度額 | 書面に極度額がなければ保証は効力を生じない | 契約書で確認 |
手形と電子記録債権を含む支払条件の決まり方は建材の支払条件の決め方にまとめてある。



