建設業では2026年上半期に、倒産1,043件と休廃業・解散4,894件を合わせて5,937件が市場から退場した。帝国データバンクの集計で過去最多になる。売掛金を持つ側の備えには、掛金を積んで倒産後に借り入れる経営セーフティ共済のほかに、損害保険会社が保険金を払う取引信用保険がある。後者は回収不能額がそのまま戻る保険ではない。危ないと見た1社だけを選んで掛ける使い方もできない。

誰が契約して、取引先には何が伝わるか

信用保険:債務者が債務を履行しない場合に、債権者が被る損害を補償する保険。取引信用保険はこの系統で、売り手が契約者と被保険者を兼ねる。債務者が契約者になって保険会社が債権者に履行する保証・保証保険とは、契約の当事者が入れ替わる。

取引先には保険加入の事実は伝わらない。引受保険会社の制度資料にある取引の流れでは、保険金を支払った後の債権回収は引受保険会社が行う。与信枠の設定にも保険会社の審査が入るため、自社の審査との二重チェックになる。

保険金が出る事由

あいおいニッセイ同和損害保険の重要事項説明が挙げる支払事由は6通りある。

支払事由 約款上の中身
法的整理の申立 債務者に破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始または特別清算開始の申立があった場合
取引停止処分 債務者が取引金融機関または手形交換所の取引停止処分を受けた場合
強制換価と差押え 債務者の財産につき強制換価手続が開始された場合、仮差押命令が発せられた場合、保全差押としての通知が発せられた場合
相続の限定承認など 相続人の全員が相続の限定承認もしくは相続の放棄の申述をした場合、または財産の分離の請求がなされた場合
生存不明 財産につき管理人を置かないまま住所または居所を去った後1年間を経過しても生存が確かめられない場合
履行遅滞 弁済期日から起算して保険証券に記載された期間を経過しても履行せず、保険会社が履行の見込がないと判断したとき

最後の履行遅滞を補償に入れるかは商品で分かれる。東京海上日動の取引信用保険シンプルプランは「法的倒産のみ」と「法的倒産および債務不履行」の2プランから選ぶ形で、前者を選ぶと入金が止まったままの取引先は支払事由に当たらない。履行遅滞までの期間は保険証券に書かれる。業界団体の団体制度として引き受けられている少額包括型のミニ取引信用保険では、弁済期日から60日に設定されている。

出る額の計算

保険金は損害の額に縮小支払割合を掛けた額で、1債務者あたりは支払限度額が上限になる。縮小支払割合は保険証券に記載される。引受保険会社の制度資料は、一般的な取引信用保険の縮小支払割合を90%から95%としている。名古屋商工会議所の制度は回収不能債権額の95%と取引先ごとの支払限度額のいずれか低い額を払う。

損害の額は未回収債権額の満額ではない。

項目 扱い
未回収債権額 事故発生時にまだ回収できていない売掛金と受取手形の合計
遅延利息 事故発生日までの分を加算。利率は売買契約書の約定利率、なければ民法419条1項の法定利率
反対債務 その取引先から仕入れている買掛債務の額を、未回収債権額と遅延利息が債権総額に占める割合で按分して差し引く
回収金 担保権の行使による回収額と、弁済を受けた金額を差し引く

上限は2段ある。取引先ごとの支払限度額と、1保険契約で払う保険金の合計の上限である保険証券総支払限度額だ。名古屋商工会議所の制度は後者を2億円または制度加入時の保険料の20倍の大きい方に置く。団体制度で同じ取引先に複数の被保険者がいる場合は、全被保険者の合計がその取引先の支払限度額までになり、各社の認定損害額の比で按分される。

損害防止と権利保全に要した費用は、保険会社の承認を得て支出した分が費用保険金として別に出る。担保権の行使による回収のために要した金額はここから除かれる。動産売買の先取特権や所有権留保で回収に動く段取りは納品済みの建材の代金が回収できないときにまとめている。

支払限度額の決まり方と保険料

支払限度額は自己申告では決まらない。申告した取引先ごとの債権残高を基準に保険会社が事前審査し、審査結果によって申告額より減額されることも、設定できないこともある。

申告の基になる必要保証額は、想定する債権残高から担保や保証金、ファクタリング等の金額を差し引いた債権額を指す。担保を取っている分は保険で二重に埋めない組み立てになる。

保険料は債務者支払限度額の合計に料率を掛けて出す。料率は債務者の信用状況、債務者ごとの支払限度額、過去の事故の発生状況などで決まる。制度資料にある見積例は次の3件で、限度額合計が大きいものほど料率が低い。

債務者支払限度額合計 保険料率 年間保険料
1,000万円 2.8% 28万円
4,000万円 2.4% 96万円
3億円 0.9% 270万円

保険期間は原則1年で、料率と支払限度額の条件は毎年見直される。継続時も取引先データの提出が要る。取引先の信用状況調査と、被保険者間で重複する取引先の取り纏めに時間がかかるため、見積の作成には約4週間かかる。債権残高が増えて支払限度額を上げたいときは、変更請求書による事前の申請になる。取引先の与信枠や与信状況によって増額できない場合もある。

全取引先が前提になる理由

包括性は引受の条件に書かれている。名古屋商工会議所の制度は原則として全ての取引先を対象とし、債権残高が一定額以上など客観的な基準による包括性を前提に置く。特定の取引先に限定した引受はできないと明記している。最低対象取引先数は10社以上で、条件によって5社以上も可能になる。

債権保証サービス(保証プラン)は選定の自由度が違う。大阪商工会議所が伊藤忠商事と提携して出している制度では、2つのプランの加入条件がこう分かれる。

条件 保険プラン(取引信用保険) 保証プラン(債権保証サービス)
対象となる債権 継続的取引かつ決済条件が1年以内の売上債権等 決済条件が半年以内の売上債権等(半年超は別途相談)
支払限度額(1社あたり) 100万円から上限なし 10万円から上限なし
対象取引先の選定基準 客観的な基準による包括性に基づき選定 任意選択
最低対象取引先数 10社(全取引先を対象とする場合は5社) 5社(それ以下は別途相談)
最低支払限度額合計 1,000万円 3,000万円

1社だけ守りたいなら保証サービス、全体の貸倒れを平準化したいなら保険という分かれ目になる。名古屋商工会議所も2024年9月から保証サービスを併設している。

対象から外れる債権と取引

決済期間の長い取引は外れる。商工会議所の制度は商品引渡日から支払期日までが1年以内の決済条件を対象とし、1年を超えると対象外。少額包括のミニ取引信用保険では、代金決済の締切日の翌日から支払期日(手形で決済する場合は手形決済日)までが原則180日以内の債権に限る。手形を使うときの支払サイトの数え方は建材の支払条件の決め方にある。

取引の形と相手の属性にも線がある。保険の対象は継続的な売買基本契約や販売委託基本契約に基づく債権で、継続的ではない個別売買(スポット取引)は引き受けられない。工事の請負代金が入るかは商品次第だ。東京海上日動のシンプルプランは売買契約と請負契約の両方の代金債権を対象にし、引受対象の業種は製造業、卸売業、運送業、建設業で、最近の会計年度の年間売上高100億円以下が条件になる。ミニ取引信用保険が対象にする取引先は、会社設立後5年以上で日本国内に所在し、被保険者の親会社や子会社、関連会社でないことが条件だ。融資や債務保証と判断される行為による損失も対象外だ。

すでに入金が遅れている取引先は後から足せない。名古屋商工会議所の制度は、既に履行遅滞が発生している取引先を対象に加えることはできないとする。

既発生債権の扱いは契約方式で入れ替わる。

契約方式 保険の対象 事故の発生時期
債権発生方式 保険期間中に取得した債権。保険始期日前に取得した既発生債権は対象外 保険期間終了後に事故が起きた場合も支払う
債権残高方式 保険期間中に有する債権。既発生債権も対象 保険期間中に事故が起きた場合のみ支払う

商工会議所の制度は加入日以降に発生する債権をカバーする建て付けで、支払限度額設定時にすでに発生している債権を入れる場合は年間制度加入料の25%の割増保険料がかかる。

契約後に保険金を落とす場面

出る事由に当たっても免責で落ちる。重要事項説明が挙げる主なものは次のとおり。

保険金が出ない主な場合 中身
故意・重過失・法令違反 保険契約者、被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反によって発生した損害
履行遅滞を知りながらの契約 債務者が債務を履行していないことを知りながら、その債務者と締結した主契約について発生した損害
支払事由該当を知りながらの契約 債務者が法的整理の申立などの支払事由に該当することを知りながら締結した主契約について発生した損害
期日経過後の引渡し 弁済期日から起算して特約書記載の期間を経過しても履行しない債務者に、その期間の経過日の翌日以降に商品を引き渡したことによって発生した損害
商品の瑕疵 商品に瑕疵があったことによって発生した損害
制限行為能力者との契約 未成年者その他の制限行為能力者と主契約を締結した場合に、法定代理人その他の者の追認を受ける時までの間に発生した損害
戦争・災害・核 戦争や内乱等、地震・噴火・津波・洪水・高潮・台風に基づく社会的もしくは経済的混乱、核燃料物質による事故に基づく混乱によって発生した損害

期日経過後の引渡しの免責で基準になる弁済期日は、商品を販売した時点で定めた当初の約定期日を指す。手形の更改などで決めた新しい弁済期日はここでいう弁済期日に当たらない。支払いが遅れている相手と期日を組み直して出荷を続けると、組み直した期日ではなく元の期日から数えられる。取引条件を変更するときは事前連絡が要る。

契約時には、貸倒損失や支払遅延の発生状況の告知を求められる。故意や重大な過失で申し出なかったり、申し出た内容が事実と異なっていた場合は、契約が解除されたり保険金が支払われないことがある。

通知の期限も保険金に直結する。主契約の内容を変更するとき、被保険者の合併や解散、被保険者に対する法的整理の申立がなされるときは、あらかじめ連絡しないと保険期間の途中でも契約が解除されたり、保険金が支払われないことがある。保険期間中に新しく取引を始める取引先は、取引開始の1か月前までに代理店へ通知する。追加と削除は毎月末日までに報告して精算し、翌々月1日から対象になる。主契約が解除されたり譲渡された場合は契約が失効する。ただし損害を発生させた債務者との主契約を解除して商品の引渡しを停止する場合は失効しない。

被保険者には損害の発生および拡大の防止義務と、債務者や保証人から弁済を受けることができる場合に、その権利の行使または保全について必要な手続を行う義務がある。クーリングオフはできない。

入金遅延の段階で現金化する選択肢

法的整理を待たずに資金化する組み合わせもある。損害保険ジャパン日本興亜(現 損害保険ジャパン)は2017年12月に入金遅延が発生した段階で保険金を受け取るBCP特約を開発し、2018年9月からGMOペイメントゲートウェイと提携して取引信用保険の加入者向けの『早期資金化サービス』を始めた。2018年9月の発表時点の条件は、審査期間が原則3営業日、債権買取合計額が100万円から1億円、買取り社数が1社から、手数料が1回0.5%から。保険に加入していない利用者向けの同社サービスは3社から、2.0%からとされている。

加入前の確認表

# 確認すること 根拠
1 主要取引先の債権残高から、担保や保証金、ファクタリング済みの額を引いた必要保証額を出したか 必要保証額の定義
2 対象にしたい取引先が10社(全取引先を対象にするなら5社)に届くか 商工会議所制度の最低対象取引先数
3 支払限度額の合計が最低額(保険プラン1,000万円)に届くか 大阪商工会議所の加入条件
4 縮小支払割合、取引先ごとの支払限度額、保険証券総支払限度額の3つを見積書で確かめたか 保険金の算式と引受条件
5 買掛債務がある取引先について、按分で差し引かれる額を織り込んだか 損害の額の算式
6 「法的倒産のみ」か「法的倒産および債務不履行」か、履行遅滞までの期間が何日かを確かめたか プランの選択と保険証券の記載
7 工事の請負代金債権が対象に入る商品か確かめたか 商品ごとの保険の対象
8 決済条件が1年(商品により180日)以内に収まるか、手形サイトを足して数えたか 対象となる債権の決済期間
9 すでに入金が遅れている取引先は対象に入らない前提で、残りの保全手段を決めたか 履行遅滞先の除外
10 既発生債権を拾う必要があるか、債権発生方式と債権残高方式のどちらで契約するかを決めたか 契約方式の違い
11 期日が過ぎた取引先への出荷を止める社内手順と、取引条件変更時の事前連絡の担当を決めたか 期日経過後の引渡しの免責と通知義務
12 新規取引先の登録を取引開始1か月前までに回す段取りを作ったか 新規取引先の通知期限

商工会議所の制度加入料は全額損金処理ができる。倒産の兆候を自力で追う情報源と、倒れた後の債権届出までの段取りは取引先の倒産に備える与信管理の型にある。現場に置いた建材そのものの破損や盗難は取引信用保険の守備範囲ではなく、建材の破損・盗難・水濡れに備える保険の系統になる。

確認先: 各引受保険会社の普通保険約款と特約、特約書、重要事項のご説明、所属する商工会議所の共済担当