築20年のアパートで外壁の塗り替えに180万円かかったとする。建物の取得価額が3,000万円なら、区分の付かない金額でも10%の300万円以下に収まるので、全額を修繕費で落とせる。取得価額1,200万円の建物に同じ180万円をかけると、10%は120万円で、60万円の線も超える。残るのは、継続適用を条件に30%と10%のいずれか少ない額を修繕費とする特例だけ。修繕費は54万円で、126万円が資本的支出になる。

工事の中身は同じでも、対象の建物と金額の刻みで結論が変わる。刻みは4段あり、上から順に見る。

資本的支出の定義

法人税法施行令132条は、固定資産について支出する金額のうち、使用可能期間を延長させる部分に対応する金額と、支出の時における価額を増加させる部分に対応する金額を損金に算入しないと定める。両方に当たるときは、いずれか多い金額。比べる相手は、取得の時にその資産を通常の管理または修理をするものとした場合に予測される使用可能期間と価額で、直前の状態ではない。個人事業では所得税法施行令181条が同じ文言で必要経費から外す。

判定は名目でなく実質でする。工事名が「修繕工事」でも中身が改良なら資本的支出になる。

資本的支出の例示(法基通7-8-1、所基通37-10):建物の避難階段の取付け等、物理的に付加した部分の費用。用途変更のための模様替え等、改造または改装に直接要した費用。機械の部分品を特に品質または性能の高いものに取り替えた場合の、通常の取替えに要すると認められる費用を超える部分。

3つ目の書き方が実務に効く。高いグレードに替えたとき、支出の全額が資本的支出になるのではなく、同等品に替えたとしたらいくらだったかとの差額だけが資本的支出になる。差額を出すには、同等品の金額が見積書に残っている必要がある。

増築は別枠で、通達の注が「建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる」と書いている。資本的支出ですらなく、新しい資産の取得として扱われる。

修繕費に当たると通達が名指しするもの

法基通7-8-2と所基通37-11は、修繕費に該当する費用を5つ挙げている。

建物の移えいまたは解体移築の費用は修繕費になる。ただし解体移築は、旧資材の70%以上がその性質上再使用でき、その旧資材をそのまま使って従前と同一の規模および構造の建物を再建築する場合に限られる。移築を予定して取得した建物は対象外。

機械装置の移設費用(解体費を含む)も修繕費。地盤沈下した土地を沈下前に戻す地盛り、地盤沈下で浸害を受けるようになった建物や機械装置の床上げ、地上げ、移設も同じ。地盛りは土地の取得直後に行った場合、土地の効用を著しく増やす目的の場合、評価損を計上した土地の場合が除かれる。床上げ工事が従来の床面の構造や材質を改良するものだと明らかなときは、その改良部分は外れる。

現に使っている土地の水はけを良くするための砂利や砕石の敷設、砂利道への砂利や砕石の補充も修繕費に当たる。

判定の4段と、それぞれが効く場面

上の段で決着すれば下は見ない。国税庁のタックスアンサーNo.5402も、20万円未満と3年周期の扱い、および60万円未満と10%の扱いが「優先して適用される」と書いている。

段 根拠(法人) 条件 効果 区分が「明らかでない」ことが要るか
1 法基通7-8-3(1) 一の修理、改良等の額が20万円未満 全額を修繕費として損金経理できる 不要
2 法基通7-8-3(2) おおむね3年以内の周期で行われることが既往の実績等から明らか 全額を修繕費として損金経理できる 不要
3 法基通7-8-4 60万円未満、または前期末取得価額のおおむね10%相当額以下 修繕費として損金経理できる 必要
4 法基通7-8-5 継続適用が条件 30%相当額と前期末取得価額の10%相当額のいずれか少ない額を修繕費、残額を資本的支出 必要

1段目と2段目は「明らかでない」という条件を持たない。資本的支出だと分かっていても、20万円未満なら修繕費で落ちる。逆に3段目と4段目は、条文が「資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額」と限定しているので、見積書で原状回復部分と改良部分がきれいに割れている工事には使えない。割ったぶんだけ、割れた改良部分は資本的支出として確定する。

判定の単位は金額の払い方ではなく「一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良等」。一の工事を分割発注して1件ずつ20万円未満に見せても、計画が一つなら一の修理、改良等として合算される。2以上の事業年度にわたるときは、各事業年度ごとに要した金額で見る(7-8-3(1)括弧書き)。決算期をまたぐ改修は、期ごとの出来高が判定額になる。

同一の固定資産の意味も通達の注が定めている。一の設備が2以上の資産で構成されるなら個々の資産ごと、送配管や送配電線のように一定規模でなければ機能しないものは、その最小規模として合理的に区分した区分ごと。

10%の分母になる「前期末における取得価額」には落とし穴がある。過去に令55条5項の適用を受けて本体と資本的支出を一の資産にまとめていても、分母は合算後の一の資産の取得価額ではなく、旧減価償却資産の取得価額と追加償却資産の取得価額の合計額(7-8-4注1)。帳簿価額ベースで縮んだ金額を分母にすると、修繕費になるはずの工事が資本的支出に転ぶ。

耐用年数を過ぎた資産でも判定は変わらない。7-8-9が「一般の例によりその判定を行う」と念を押している。償却が終わった築古の建物だから全部修繕費、という処理は通らない。

建材の工事はどちら側に寄るか

条文と通達だけでは線が引けないので、公表された判断を並べる。

工事 区分 判断の理由
鉄筋コンクリート造店舗共同住宅の外壁への樹脂注入と塗装(平成元年10月6日裁決) 修繕費 樹脂注入が建物全体でなく部分に行われた。塗装は通常の維持管理に必要な修繕の範囲。防水美装も塗装材に特別に上質な材料を使っていない
築17年の賃貸マンションのシステムキッチンとユニットバスの全面取替え(平成26年4月21日裁決) 資本的支出(全額) 一部の補修や交換でなく、物理的にも機能的にも一体不可分な台所と浴室の設備を全面的に取り壊して新設した。建物の一部分の取壊しと廃棄、新設が同時に行われたとみるべきもの
事務室の蛍光灯100本を蛍光灯型LEDランプに取替え(国税庁質疑応答事例、総額110万円) 修繕費 蛍光灯は照明設備(建物附属設備)が効用を発揮するための一つの部品で、部品の性能が高まっても建物附属設備として価値等が高まったとまではいえない

3件から読み取れる線は2本。1本は範囲で、部分の補修は修繕費に寄り、一体の設備を丸ごと外して新設すると資本的支出に寄る。もう1本は材質で、同等の材料に戻せば修繕費、特別に上質な材料を使えば上乗せ分が資本的支出になる。LEDの事例は、部品単体の性能が上がっても、その部品が組み込まれた資産(照明設備)の価値が上がったかで見ることを示している。金額の大きさそのものは理由にならない。平成元年の裁決も、区分は「支出金額の多寡によるのではなく、その実質によって判定する」と書いている。

資本的支出になった後の扱い

令55条1項は、損金に算入されなかった金額を取得価額として、本体と種類および耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとする。木造アパートの外壁改修が資本的支出になれば、その金額は木造アパートの耐用年数で償却していく。工事の耐用年数ではない。

例外が3つある。平成19年3月31日以前に取得した資産への資本的支出は、その資本的支出を行った事業年度において、金額を本体の取得価額に加算して償却する方法も選べる(令55条2項、タックスアンサーNo.5405)。定率法を採用し平成24年4月1日以後に取得した本体なら、資本的支出をした事業年度の翌事業年度開始の時に、本体と追加償却資産の帳簿価額の合計額を取得価額とする一の資産にまとめられる(令55条5項)。同一事業年度に複数回の資本的支出をし、定率法を採用したうえで本体との合算をしない場合は、翌事業年度開始の時に、種類と耐用年数が同じ資本的支出同士をまとめられる(同条6項)。平成19年4月1日から平成24年3月31日までに取得した本体は、本体が250%定率法、追加分が200%定率法で償却率が違うため、本体との合算はできない。いずれの方法も、翌事業年度に償却費を計上した後で原則の方法に戻すことはできない。

中小企業者等の30万円未満の少額減価償却資産の特例は、資本的支出には原則として使えない。措置法通達67の5-3が、令55条1項で新たに取得したものとされても、既に有する資産への改良、改造等のための支出であることから特例の「取得」に当たらないとしている。同通達は例外も置いていて、規模の拡張である場合や単独資産としての機能の付加である場合など、実質的に新たな資産を取得したと認められる場合には適用できる。増築部分を独立に区分できるかで結論が動く。

賃借建物の内装工事

テナント区画の内装は、造作の所有者と建物の所有者が違う。耐用年数通達1-1-3は、建物を賃借して自己の用に供するために造作した場合、造作が建物についてされたものなら、建物の耐用年数と造作の種類、用途、使用材質等を勘案して合理的に見積もった耐用年数で償却すると定める。造作が建物附属設備についてされたものなら、建物附属設備の耐用年数を使う。

同通達の注が償却の単位を決めている。同一の建物(一の区画ごとに用途が違う場合は同一の用途に属する部分)についてした造作は、その全てを一の資産として償却する。耐用年数は造作全部を総合して見積もる。この点は平成24年2月6日裁決でも、造作全部を一つの資産として取得価額を算出すべきと判断されている。

賃借期間の定めがあって更新できず、かつ有益費の請求も買取請求もできない建物なら、賃借期間を耐用年数にできる(1-1-3ただし書)。1-1-3の対象にならない他人の減価償却資産への資本的支出は、その資産の耐用年数で償却する(1-1-4)。

見積書に要るのは、造作のうち給排水または衛生設備、ガス設備、昇降機設備、電気設備といった建物附属設備に当たる部分と、それ以外の造作を分けた金額。前者は建物附属設備の耐用年数、後者は総合見積りの一つの資産になるため、混ざったままでは償却の計算が組めない。

見積書と請求書に残す記載

判定に必要な情報は、工事が終わってからは作れない。上の条文と通達が根拠にしている事実は次の9つ。

災害で被害を受けたとき

7-8-6が別の物差しを置いている。被災資産の原状回復のために支出した費用は修繕費。被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水、土砂崩れの防止等の費用は、修繕費とする経理をしていれば認められる。この2つに当たらない費用のうち区分が明らかでないものは、30%相当額を修繕費、残額を資本的支出とする経理が認められる。7-8-1から7-8-5までの取扱いにかかわらず適用される。評価損を計上した被災資産は対象から外れる。

被災資産の復旧に代えて資産を取得したり、被災前の効用の維持を超える特別の施設を設置したりする場合は、新たな資産の取得になる。

補修義務のない賃借資産が災害で被害を受け、原状回復の補修費用を修繕費として経理したときも認められる(7-8-10)。賃貸人等から支払を受けたら、受けた日の属する事業年度の益金に算入する。

個人事業の対応通達

工務店が個人事業なら所得税基本通達を見る。金額の刻みは法人と同じで、分母の基準日と手続の書き方が違う。

内容 法人 個人 個人側の違い
資本的支出の例示 法基通7-8-1 所基通37-10 ほぼ同文
修繕費に含まれる費用 法基通7-8-2 所基通37-11 資産損失や雑損控除で損失に算入した金額を除く
20万円未満・3年周期 法基通7-8-3 所基通37-12 各年ごとの金額で判定
60万円未満・10%以下 法基通7-8-4 所基通37-13 分母は前年12月31日における取得価額
30%と10%の少ない方 法基通7-8-5 所基通37-14 同上
災害の特例 法基通7-8-6 所基通37-12の2、37-14の2 区分が困難な費用は30%を原状回復部分にできる
耐用年数経過後の判定 法基通7-8-9 所基通37-15の2 同じ
補修義務のない賃借資産等 法基通7-8-10 所基通37-15の3 同じ

要件の書き方も違う。法人側の7-8-3と7-8-4は「修繕費として損金経理をすることができるものとする」、個人側の37-12と37-13は「修繕費の額としてその業務に係る所得の金額を計算し、それに基づいて確定申告を行っているときは、これを認めるものとする」。どちらも、決算と申告でその処理をしていることが適用の入口になる。

確認先: 法人税基本通達 第8節、所得税基本通達 資本的支出と修繕費等