工事現場に積んだ建材が消えたとき、建設工事保険から保険金が出るかどうかは、盗難という事故を特定できるかで決まる。東京海上日動の建設工事保険普通保険約款は第1条で「不測かつ突発的な事故」による損害を広く拾う一方、第2条(1)⑥で「残材調査の際に発見された紛失または数量の不足の損害」を外している。数が合わないという形でしか出てこない不足は、事故として扱われない。
免責:保険金が支払われない事由。金額で自己負担する分は免責金額と呼び分ける。
保険が効く区間
工事用材料と工事用仮設材について、保険責任は工事現場で輸送用具から荷卸しが完了した時に始まる(建設工事保険普通保険約款第8条(1)ただし書)。保険期間の初日が来ていても、トラックの荷台に載っている建材はまだ対象に入らない。終わりは工事の目的物の引渡しの時で、引渡しを要しない工事は完成した時(同第8条(2))。一部だけ引き渡したときは、その部分についてだけ責任が終わる。
| 場面 | 普通保険約款だけの場合 | 補う特約 |
|---|---|---|
| 発送地の保管場所からの搬出、輸送用具への積込み | 対象外 | 工事資材等輸送危険担保特約条項 |
| 輸送中 | 対象外 | 同上 |
| 現場での荷卸し中 | 対象外 | 荷卸危険担保特約条項(荷卸しを開始した時から) |
| 荷卸し完了後の現場保管中 | 対象 | 追加なし |
| 取付け後から引渡しまで | 対象 | 追加なし |
| 引渡し後 | 対象外 | メンテナンス期間に関する特約条項(拾える事故は限定) |
工事資材等輸送危険担保特約条項が拾うのは、日本国内の発送地における保管場所から搬出された時と、輸送用具への積込みが開始された時のいずれか早い時から、工事現場で荷卸しが完了した時までになる(同特約第1条)。対象は対象工事専用の工事用材料と工事用仮設材に限られ、触媒や溶剤の類と原料燃料の類は入らない(同第3条)。損害の額の基礎になる保険価額は仕切状面価額で、仕切状がないときは発送の地と時における価額に仕向地までの運送料その他の諸掛りを足した額とみなす(同第4条)。輸送用具の行方が分からなくなった日から60日間不明なら、保険価額をもって損害の額とする(同第5条(6))。
輸送特約でも払われない場面が5つある。荷造りの不完全、輸送用具や輸送方法や輸送に従事する者が出発の当時に安全な輸送に適していなかったこと、輸送の遅延によって被保険者が負う損害賠償責任、棚卸しの際に発見された数量不足、紛失その他原因不明の数量不足(同第2条)。2つ目は、契約者と被保険者とその代理人と使用人のいずれもその事実を知らず、知らなかったことに重大な過失がなかった場合には適用されない。
引渡し後のメンテナンス期間は、拾える事故が絞られる。ビジット・メンテナンスは請負契約に従って行う修補作業の拙劣その他の修補作業中の過失による事故だけ、エクステンデッド・メンテナンスはそれに加えて引渡し前の工事期間中に現場で発生した施工の欠陥による事故を拾う。どちらも、被保険者が法律上または請負契約上で自らの費用で復旧すべき責任を負わない損害、事故発生前に既に知っていたか重大な過失で知らなかった施工の欠陥に起因する損害、消耗や摩耗や腐食や劣化の損害は外れる。メンテナンス期間は引渡しの時に始まり、保険証券記載のメンテナンス期間が経過した時と請負契約上の保証責任期間の終期のいずれか早い時に終わる。
引渡しが保険期間の終了後になると分かった時点で、満了前に書面で延長の承認を請求する(第9条(1))。延長前の保険期間の終了後、追加保険料が払い込まれる前に起きた事故の損害には保険金が出ない(同第9条(3))。
保険の対象に入る建材と入らない建材
保険の対象は工事現場にある次の物に限られる(第3条(1))。
| 号 | 対象 |
|---|---|
| ① | 保険証券記載の工事の目的物 |
| ② | ①に付随する支保工、型枠工、支持枠工、足場工、土留工、防護工その他の仮工事の目的物 |
| ③ | ①②の工事のために仮設される電気配線、配管、電話・伝令設備、照明設備、保安設備(工事用仮設物) |
| ④ | 現場事務所、宿舎、倉庫その他の工事用仮設建物と、そこに収容されている什器・備品(家具、衣類、寝具、事務用具、非常用具に限る) |
| ⑤ | 工事用材料および工事用仮設材 |
実務で効くのは第3条(2)で、③から⑤までは保険証券記載の工事専用でない場合、特別の約定がないかぎり保険の対象に含まれない。複数現場を回している足場材や、余った建材を別の現場へ持ち回している分は、その工事専用と言えなくなった時点で外れる。
保険の対象に含まれない物は第3条(3)に5つ並ぶ。据付機械設備等の工事用仮設備と工事用機械器具およびその部品、航空機や船舶や車両、設計図書や証書や帳簿や通貨や有価証券、触媒や溶剤や冷媒や潤滑油の類、原料や燃料の類。建設機械と工具は工事保険では拾えない側になる。
保険金額は請負契約金額とする(第4条)。支給材料の金額が請負金額に算入されていない場合はその金額を加算し、保険の対象に含まれない工事の金額が入っていればその分を差し引く。保険金額が請負金額より低いと、損害の額から免責金額を引いた残額に「保険金額÷請負金額」を掛けた額まで保険金が縮む(第6条(2))。支給材料の加算を落とすと、支給材料以外の建材が壊れたときの保険金もこの比率で減る。
建材そのものに関わる免責も第2条(1)に入っている。保険の対象の性質や瑕疵、さびやスケールを含む自然の消耗、劣化による損害は払われない(⑧)。工事用仮設材として使う矢板や杭やH型鋼などを打ち込んだり引き抜いたりする際の曲損や破損、引抜き不能も外れる(⑩)。納期の遅延や能力不足その他の理由による債務不履行で被保険者が損害賠償責任を負って被った損害も対象外で(⑨)、建材の納入遅れが工期に響いて違約金が出た分は工事保険では拾えない。契約者や被保険者やその代理人、工事現場責任者の故意または重大な過失、法令違反による損害も払われない(①)。
損害の額は復旧費、つまり損害発生直前の状態に復旧するのに直接要する再築、再取得、修理の費用で、請負金額の内訳書を基礎として算出する(第5条(1)(2))。内訳書に損料または償却費を計上した工事用仮設材と仮設物と仮設建物と什器・備品は時価額による。復旧費に入らない費用は5つで、仮修理費、排土または排水費用、工事内容の変更や改良による増加費用、損傷復旧方法の研究費用、復旧作業の休止や手待ち期間の手待ち費用(第5条(4))。仮修理費と排土排水費用は、保険会社が本修理や復旧費の一部をなすと認めた分だけ戻る。残存物取片づけ費用の保険金は損害保険金の10%が限度になる(第6条(3))。
盗難と数量不足の分かれ目
3つの保険は、事故として特定できる盗難と、数が合わないという形でしか出てこない不足を、そろって分けている。
| 事象 | 建設工事保険(現場) | 工事資材等輸送危険担保特約(輸送中) | 動産総合保険 |
|---|---|---|---|
| 盗難 | 対象(第1条の不測かつ突発的な事故) | 対象 | 対象(盗難は強盗、窃盗またはこれらの未遂) |
| 残材調査で発見された紛失や数量不足 | 対象外(第2条(1)⑥) | 免責の定めなし | 免責の定めなし |
| 棚卸しで発見された数量不足 | 免責の定めなし | 対象外(同特約第2条④) | 免責の定めなし |
| 紛失その他原因不明の数量不足 | 免責の定めなし | 対象外(同特約第2条⑤) | 対象外(第4条④) |
| 置き忘れ、および置き忘れ後の盗難 | 免責の定めなし | 免責の定めなし | 対象外(第4条④) |
| 詐欺、横領 | 免責の定めなし | 免責の定めなし | 対象外(第4条③) |
これらの免責が指しているのは、いつ何が無くなったかを特定できない状態だ。工期末の残材調査や月末の棚卸しで初めて不足が表に出る管理では、原因が盗難であっても免責の側に落ちる。搬入日と数量を残した納品書と受入検査の記録が、どちら側に立つかを分ける材料になる。
管理物件担保特約条項は別扱いで、被保険者が工事現場で所有したり占有使用したり直接作業を加えたり、他人から借りたり預かったりしている財物の損壊を拾う。ただし盗難と紛失と詐欺と横領は外れている(同特約第3条②)。施主から預かった既存設備やリース物件の盗難は、この特約では拾えない。
水濡れの分かれ目
建設工事保険で払われない水濡れは、風、雨、雪、雹、砂塵その他これらに類するものが、保険の対象または保険の対象を収容する建物の内部へ吹き込み、浸み込み、漏入したことによる損害になる(第2条(1)③)。ただし第1条の事故によって保険の対象または収容建物が破損したために生じた吹き込みは、この免責から外れる。仮設倉庫の屋根が強風で飛び、そこから入った雨で石膏ボードが濡れた場合は、破損が先にある。開口部を養生しただけの躯体に雨が吹き込んだ場合は、先立つ破損がないので免責の側になる。寒気や霜や氷による損害も払われない(同④、雹は含まない)。
水災の扱いは商品で向きが逆になる。建設工事保険普通保険約款の免責に洪水や高潮はなく、地震と噴火とこれらによる津波が外れているだけ(第2条(2)②)。東京海上日動も商品説明で、火災と水災と盗難を補償対象の事故の例に挙げている。一方の動産総合保険普通保険約款は第4条⑤で、台風や暴風雨や豪雨等による洪水、融雪洪水、高潮、土砂崩れ、落石等の水災を、特約に別の定めがないかぎり払わない側に置いている。
| 原因 | 建設工事保険 | 動産総合保険 |
|---|---|---|
| 吹き込み、浸み込み、漏入による濡れ | 対象外(第2条(1)③)。事故で対象や収容建物が破損した結果なら対象 | 免責の定めなし |
| 洪水、高潮、土砂崩れ等の水災 | 対象 | 対象外(第4条⑤、特約で担保できる) |
| 地震、噴火、津波 | 対象外(第2条(2)②) | 対象外(第3条(2)②) |
| さび、変質、腐食などの自然の消耗や劣化 | 対象外(第2条(1)⑧) | 対象外(第3条(1)④) |
建設工事保険と組立保険と土木工事保険の差
東京海上日動の約款集では、建設工事保険普通保険約款と組立保険普通保険約款の補償条項が文言まで一致している。保険金を支払う場合、支払わない場合の11号、保険の対象の範囲、保険金額、損害の額の算定、保険金の支払額まで同じで、違うのは解約時の保険料返還の計算だけになる。建設工事保険は別表3の短期料率表で既経過期間に対応する保険料を差し引き、組立保険は既経過期間中の危険に基づき計算した保険料を差し引く。建材の破損や盗難や水濡れの扱いは、どちらの約款が使われても変わらない。
差が出るのは土木工事保険で、免責が24号まで増える。掘削工事に伴う余掘りや肌落ち、浚渫部分の埋没や隆起、切土法面や盛土法面の肌落ちや浸食、舗装工事の仕上げ表面の波状変形や剥離やひび割れ、コンクリート部分のひび割れ(不測かつ突発的な外来の作用によるものを除く)、芝や樹木の損害、土捨場や土取場の土砂崩壊、不発弾や機雷が並ぶ(土木工事保険普通保険約款第2条)。
欠陥の扱いも土木工事保険だけ細かい。設計、施工、材質、製作の欠陥の修理や取替や補強に要した費用は払わないと明記したうえで、その欠陥によって保険の対象の他の部分について生じた損害はこの免責から外している(同第2条(3)③)。建設工事保険と組立保険の側は、欠陥を除去するための費用だけを免責に置く(第2条(3)②)。
外構や造成を同じ請負契約に含む工事では、土木工事に関する特約条項が付くと、その土木工事部分に土木工事保険と同じ免責が乗る。特約の言う土木工事には、支保工、型枠工、足場工、仮橋工、仮桟橋工、土留工、締切工、路面覆工、工事用道路工、仮排水路工、土取場工または土捨場工などの仮工事が含まれる(同特約第1条)。
商社の倉庫と在庫にかかる動産総合保険
動産総合保険は、保険証券記載の担保地域内における偶然な事故によって保険の目的に生じた損害を払う(動産総合保険普通保険約款第2条(1))。担保地域は、保険証券に日本国と異なる国や地域の記載がなければ日本国内になる。倉庫での保管と現場までの輸送を1本で拾える点が、区間が細かく切れる工事保険との違いになる。
商品や材料の保険価額は、仕入価額または原価等の、その保険の目的の性質または状況に応じた価額とされる(同約款の用語の定義)。売価では出ない。
免責は3つの層に分かれる。
- 第3条(1)。自然の消耗や劣化、性質によるさび、かび、変質、変色、蒸れ、腐敗、腐食、ひび割れ、剥がれ、肌落ち、ねずみ食いや虫食い。保険の目的の欠陥(相当の注意を払っても発見できなかった欠陥は除く)。加工に着手した後の事故。取付上の欠陥による、取り付けた日から7日以内のガラスの損害。
- 第3条(3)。平常の使用または管理において通常生じ得るすり傷、かき傷、塗料の剥がれ落ち、ゆがみ、たわみ、へこみその他外観上の損傷や汚損で、その保険の目的が有する機能の喪失や低下を伴わないもの。フォークリフトの爪が当たってサッシ枠に擦り傷が付いた状態のように、使えるが見た目が落ちた損害はここで外れる。
- 第4条。特約に別の定めがないかぎり払わないもので、修理や清掃や解体や据付や組立や点検や検査や試験や調整等の作業上の過失または技術の拙劣、電気的または機械的事故、詐欺や横領、置き忘れや紛失、水災。
第3条(1)⑦が言う加工は、修理、清掃、解体、据付、組立、点検、検査、試験、調整等の作業を除いたものと定義されている(同条注4)。切断や穴あけのように材そのものを変える作業に着手した後は対象外になり、据付や組立の作業中は加工に当たらない。ただし据付や組立の作業上の過失と技術の拙劣は第4条①で外れるので、この作業中に落として割った損害を拾うには特約が要る。第4条①は、これらの事由によって火災や破裂や爆発が生じた場合には適用されない。
損害を誰が負担するかは請負契約が決める
公共工事標準請負契約約款は、工事目的物の引渡し前に工事目的物または工事材料について生じた損害の費用を、受注者が負担すると定める(第28条)。発注者の責めに帰すべき事由により生じた分だけが発注者負担で、そこからも第58条1項の保険でてん補された部分は除かれる。
天災等で発注者と受注者のいずれの責めにも帰すことができない損害は、第30条が分ける。受注者は事実の発生後直ちに状況を発注者に通知し、発注者が直ちに調査して損害の状況を確認する。発注者が負担するのは、損害の額と取片付けに要する費用の額の合計(損害合計額)のうち、請負代金額の百分の一を超える額になる(同第30条4項)。災害応急対策または災害復旧に関する工事における損害は、発注者が損害合計額を負担する。数次にわたる不可抗力では、損害合計額の累計に同じ百分の一の線を当て、既に負担した額を差し引く(同6項)。
第30条4項の括弧書きが記録の重みを決めている。発注者が負担する損害の額は、第13条2項の工事材料の検査、第14条1項2項の立会いや見本検査、第38条3項の部分払のための確認、その他受注者の工事に関する記録等により確認することができるものに係る損害に限られる。現場に搬入済みの工事材料でも、検査や記録で存在と数量を裏づけられない分は、この請求に乗らない。工事材料の損害の額は、損害を受けた工事材料で通常妥当と認められるものに相応する請負代金額とし、残存価値があればその評価額を差し引いて算定する(同5項2号)。
保険を付ける義務は第58条にある。受注者は工事目的物および工事材料(支給材料を含む)等を、設計図書に定めるところにより火災保険や建設工事保険その他の保険に付し、その証券またはこれに代わるものを直ちに発注者に提示する。第1項の保険以外の保険に付したときも直ちに発注者へ通知する。
事故の前後で残す記録
- 搬入日と数量が分かる納品書と受入検査の記録。公共工事標準請負契約約款第30条4項の確認と、盗難と数量不足の切り分けの両方にかかる
- 荷卸しが完了した時刻。建設工事保険普通保険約款第8条(1)ただし書の責任開始時点で、輸送特約との境になる
- 仮設倉庫や養生の破損状況の写真。吹き込みによる水濡れが免責から外れるかは、対象または収容建物の破損が先にあったかで決まる(第2条(1)③)
- 盗難の届出。日付と場所と対象品を特定できる形にする
- 保険証券の記載。工事専用でない工事用材料や仮設材は特別の約定がないと対象外になる(第3条(2))
- 支給材料の金額が請負金額に算入されているか。保険金額が請負金額を下回ると比例して保険金が減る(第4条、第6条(2))
- 引渡し予定日が保険期間の末日を越えていないか。越えるなら満了前に書面で延長の承認請求(第9条)
確認先: 契約中の保険会社の普通保険約款と付帯特約の一覧、および設計図書の付保条件



