工務店に納めたサッシの代金が、支払期日を過ぎても入らない。担保も保証も取っていない。それでも売主には、契約書に一行も書かなくても法律の側から与えられる権利がある。民法311条5号は動産の売買から生じた債権に先取特権を認め、321条がその範囲を「動産の代価及びその利息」と定める。抵当権と違い、登記も特約も要らない。

動産売買の先取特権:売った動産そのものから、他の債権者に優先して代金を回収できる権利。売買契約があれば当然に生じる。

使える期間は短い。建材は納入されてから壁の中に消えるまでが早く、消えた時点でこの権利も追えなくなる。

建材が今どこにあるかで結論が変わる

納めた建材の状態 先取特権の行使 根拠
買主の倉庫や資材置場にある 動産競売を申し立てられる 民法321条、民事執行法190条
現場に搬入され、まだ取り付けていない 動産のままなので同じく行使できる 同上
建物に取り付けて分離できなくなった その建材に対しては行使できない 民法242条
買主が第三者に転売して引き渡した その建材に対しては行使できない 民法333条
転売したが代金がまだ払われていない 転売代金債権を差し押さえれば行使できる 民法304条

民法333条は「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない」と書く。工務店が建材を別の業者に売って引き渡した後は、その建材を追えない。

動産競売の三つの入口

差押えをするのは執行官で、始め方は民事執行法190条1項が三つに限っている。債権者が執行官にその動産を提出する場合、動産の占有者が差押えを承諾することを証する文書を提出する場合、そして執行裁判所の開始許可の決定書の謄本を提出する場合。買主の倉庫にある建材を売主が持っているはずはなく、支払を止めている買主が承諾書を書くことも期待できないため、実際に使うのは三番目になる。

開始許可は、担保権の存在を証する文書を提出した債権者の申立てがあったときに執行裁判所が出す(190条2項)。ただし目的動産が捜索できる場所や容器にないときは出せない。決定は債務者に送達され(同3項)、裁判に対しては執行抗告ができる(同4項)。

費用は担保権実行の中では軽い。

申立て 手数料 根拠・出典
動産競売の開始許可の申立て 500円 民事訴訟費用等に関する法律 別表第一 一七の項ロ
債権差押命令の申立て(物上代位) 4,000円 同 九の項イ
執行官への予納金(動産競売事件) 3万円 東京地裁執行官室 予納金額標準表
執行官への予納金(動産差押事件) 3万5,000円 同上

予納金標準表は令和3年4月1日改定で、執行官手数料規則に基づく費用の予納であり、運搬費用や倉庫保管費用は含まれない。東京地裁執行官室の令和8年7月1日版の案内は、送達証明書について動産競売事件など必要のない場合があるとする。動産等の申立てでは請求金額計算書と当事者目録を各3枚添付し、債務者が2名以上なら1名ごとに目録類を付ける。

転売代金を押さえるときの期限

買主が建材を転売してしまっても、まだ代金を受け取っていなければ、その代金債権に先取特権を及ぼせる。民法304条は先取特権が目的物の売却や賃貸、滅失、損傷によって債務者が受けるべき金銭にも行使できるとし、ただし書で「先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」と条件を付ける。

買主に代金が入金された後では手遅れになる。差押えは債権差押命令の申立てで、担保権の存在を証する文書が提出されたときに開始する(民事執行法193条1項)。

取り付けられた材料に残るもの

建材が建物に取り付けられて分離できなくなると、民法242条により、不動産の所有者がその物の所有権を取得する。ただし書は権原によって附属させた他人の権利を妨げないと定めるが、建材を売った売主が持っていた先取特権は、目的物である動産そのものを失う。

条文が残す道は償金請求権になる。民法248条は、付合や加工の規定の適用によって損失を受けた者は703条と704条に従って償金を請求できるとする。これは不当利得の請求であって、優先弁済権ではない。

工事の途中で第三者が材料を足して仕上げた場合の所有権は、加工の規定(246条)で決まる。加工によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは加工者が加工物の所有権を取得し、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作で生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限って加工者が取得する。

元請に払わせる制度は資材代金にはない

下請の資金繰りが詰まったとき、元請に払わせる仕組みが建設業法にある。ただし対象は限られている。41条2項は、特定建設業者が発注者から直接請け負った工事を施工している者が労働者に対する賃金の支払を遅滞した場合に、許可行政庁が特定建設業者へ立替払その他の措置を勧告できると定める。41条3項は、その者が工事の施工に関し他人に損害を加えた場合の立替払の勧告。賃金と損害の二つで、資材の代金は書かれていない。

24条の3第3項も、元請が前払金を受けたときに資材の購入費用等を前払金として支払うよう「適切な配慮」を求める努力義務にとどまる。建材の売主が元請に直接請求する根拠にはならない。

所有権留保は新法で位置づけが決まった

代金完済まで売主に所有権を残す合意は実務で広く使われてきたが、民法に条文がなく、ルールは判例に委ねられてきた。2025年5月30日に成立し6月6日に公布された譲渡担保法(譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律、令和7年法律第56号)が、その明文化を担う。施行は一部の規定を除き、公布から2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から。

2条16号イが所有権留保契約を定義する。動産の所有権を移転する売買その他の契約で、代金の支払債務その他の金銭債務を担保するため、その全部の履行がされるまで所有権を売主に留保する定めのあるもの。同号ロは信販会社のように代金を立て替えた第三者に所有権を留保する形も対象に入れる。

建材の売主に効くのは109条2項になる。所有権の留保は原則として買主から売主への引渡しがなければ第三者に対抗できないが(109条1項)、代金支払債務だけを担保するために結ばれた所有権留保契約は、引渡しがなくても第三者に対抗できる。

順位でも優遇がある。111条1項が動産譲渡担保の規定を留保所有権に準用し、その読替表は37条を「109条2項に規定する債務を担保する留保所有権は、当該債務を担保する限度において、競合する他の動産譲渡担保権、動産質権又は企業価値担保権に優先する」と読み替える。買主の在庫にまとめて担保権が設定されていても、代金債務だけを担保する所有権留保はその限度で優先する。

倒産時の解除条項には歯止めが入った。110条は、買主について再生手続開始や更生手続開始の申立てがあったときに契約が解除される特約、およびそれを理由に売主へ解除権を与える特約を無効とする。

先取特権と並べると性格が違う。

動産売買の先取特権 所有権留保(譲渡担保法施行後)
発生 売買契約から当然に生じる 契約に留保の定めを置く
第三者への対抗 第三取得者への引渡しで行使できなくなる 代金債務のみを担保するなら引渡しなしで対抗可(109条2項)
競合する担保との順位 動産の売買は第三順位、動産質権者は第一順位と同じ扱い(330条1項、334条) 代金債務を担保する限度で他の動産譲渡担保権等に優先(111条による37条の準用)
建物への付合 目的物を失う(242条) 同じく目的物を失う
倒産手続 特別の先取特権として別除権(破産法2条9項、65条) 質権と同様の担保権として扱う(97条)

どちらも建物に取り付けられれば効かない点は変わらない。留保特約を結ぶ実益は、取り付け前の段階と、買主の在庫に他の担保権が設定されている場面に出る。

買主が倒産した後の位置

破産手続が始まっても、特別の先取特権を持つ債権者は別除権者として破産手続によらずに権利を行使できる(破産法2条9項、65条1項)。民事再生でも同じく別除権になる(民事再生法53条1項2項)。

再生手続では、その財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであるとき、再生債務者等が財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付して担保権を消滅させる許可を申し立てられる(148条1項)。納入済みの資材が現場で使われている場面は、この申立ての対象になりやすい。

譲渡担保法の施行後は、譲渡担保権と留保所有権が破産手続等で質権と同様に扱われることが97条で明文化され、あわせて裁判所による実行手続の禁止命令が設けられる。民事再生や会社更生では実行手続の取消命令も新設される(99条から104条)。

納入前に決めておく項目

確認先: 民法(e-Gov法令検索)、民事執行法(e-Gov法令検索)、譲渡担保法について(法務省)