工務店、建材商社、メーカーは、2026年10月1日から、顧客や取引先によるカスタマーハラスメント(カスハラ)から社員を守る措置を講じる義務を負った。改正労働施策総合推進法の施行で、会社の規模による猶予は無く、厚生労働省の指針は取引先の担当者による「契約金額の著しい減額の要求」も、許容範囲を超える言動の例に挙げている。

カスタマーハラスメント:職場で行われる顧客等の言動で、社員の業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、社員の就業環境を害するもの。指針はこの3つを全て満たすものと定め、電話やSNSでの言動も含める。

対象になる会社と取引

義務を負うのは社員を雇う全ての事業主で、厚生労働省は改正の案内で「全企業が対象」と明記した。パートや契約社員、受け入れている派遣社員も守る対象に入る。

指針はカスハラを起こす側の「顧客等」を広く取り、商品の購入者や問い合わせをする人に加えて、取引先の担当者と、企業間で契約の交渉をする担当者を例に挙げた。建材の取引に当てはめると、工務店にとっては施主と元請けの担当者、商社にとっては工務店や販売店の担当者、メーカーにとっては商社の担当者が「顧客等」になる。施設の近隣住民も例に入る。

「職場」は通常の事務所に限らない。指針は取引先の事務所、打ち合わせの飲食店、顧客の自宅も、社員が業務をする場所なら職場に当たるとした。施主宅での打ち合わせ、現場、配送先での荷受けがこれに入る。

施行日と日程

時期 出来事
2025年6月11日 改正法(令和7年法律第63号)公布
2026年2月26日 カスハラ防止の指針(厚生労働省告示第51号)と求職者等へのセクハラ防止の指針(同第52号)を告示
2026年9月 厚生労働省がカスハラ対策企業マニュアルを改訂
2026年10月1日 施行。カスハラ対策と求職者等へのセクハラ対策が義務になる
2027年3月まで(令和8年度内) 企業ヒアリングの内容を加えたマニュアルの再改訂の予定

施行日は「施行期日を定める政令」(令和8年政令第17号)で2026年10月1日と決まった。

改正で変わる会社の責任

改正前は、顧客等からの著しい迷惑行為への対策はパワハラ防止の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)で「望ましい」取り組みにとどまっていた。改正後は、次の表のとおり法律上の義務になった。

項目 改正前 改正後 対象者
顧客等からの言動への対策 パワハラ指針で講じることが望ましい取り組み 雇用管理上の措置の義務(指針の4の10項目) 全ての事業主
自社の社員が取引先の社員にした言動 カスハラについて定めなし 相手の会社から事実確認などの協力を求められたら応じる努力義務。協力を求められたことを理由に契約を切ることは望ましくない 全ての事業主
会社と社員の心構え カスハラについて定めなし 他社の社員への言動に注意を払う努力義務(事業主、役員、社員) 事業主と社員
採用面接やインターンでのセクハラ 措置の義務なし 求職者等へのセクハラ防止の措置の義務 全ての事業主

指針が示す許容範囲を超える言動の例は、言動の内容と、手段や態様の2つに分かれる。内容では、理由のない要求、契約内容を著しく超えたサービスの提供の要求、契約金額の著しい減額の要求、商品と関係のない不当な損害賠償の要求を挙げた。手段では、暴行、脅迫や土下座の強要、SNSへの悪評の投稿をほのめかす脅し、大声での威圧、同じ質問やメールの執拗な繰り返し、長時間の居座りや電話での拘束を挙げた。

指針は、苦情の全てがカスハラではないとも明記した。社会通念上許容される範囲の申し入れは「正当な申入れ」で、カスハラに当たらない。値引きの交渉や仕様変更の相談そのものではなく、契約の内容から見て相当性を欠く要求か、手段が相当でないかで判断し、目的、経緯、業種、頻度、関係性などを合わせて考える。会社や社員側の不適切な対応が原因になっている場合があることにも留意するよう求めている。

確かめる社内の書類と仕組み

指針の4が定める義務の10項目を、社内で手元にある物の名前で並べると次のとおり。

確かめる物 指針が求める中身
社長名の方針文書、社内報、社内サイト カスハラには毅然と対応し社員を守る方針を明記し、管理職を含む社員に周知する
接客と電話の対応マニュアル カスハラの内容と、あらかじめ決めた対処(上司に報告して指示を仰ぐ、一人で対応させない、犯罪に当たり得る言動は警察に通報する、本社に情報共有する など)を書き、社員に周知する
相談窓口の担当者と連絡先 窓口を決めて社員に知らせる。パワハラやセクハラの窓口と一つにしてもよい。該当するか微妙な場合も広く相談を受ける
窓口担当者向けの手順書と研修 相談を受けたときに関係部門とつなぐ仕組みと留意点
事実確認と記録の手順 事実を早く正確に確かめる。相手が他社の社員なら、相手の会社に確認への協力を求めることも含む
被害を受けた社員への対応 上司が代わって対応する、担当者を替える、複数人で対応する、配置を替える、心の不調の相談につなぐ
再発防止の記録 方針を改めて周知し、原因になった商品やサービス、説明不足の改善を図る
悪質な事案への対処方針 過度な要求を繰り返すなど悪質な場合の対処(警告文、取引や出入りの停止、仮処分の申し立て など)を事前に決め、実行できる体制を整える
録音と録画のルール やり取りを録音、録画するときは個人情報保護法を守る
就業規則とプライバシーの規定 相談者のプライバシーを守る措置と、相談したことを理由に解雇などの不利益な扱いをしない旨を定めて周知する

取引の当事者として受け身になる場面もある。商社やメーカーの営業担当者が工務店で、工務店の担当者が職人や下請けの社員に言動をした場合、相手の会社から事実確認への協力を求められることがある。指針は求めに応じる努力義務を定め、事実が確かめられたら就業規則に基づいて行為者に懲戒などの措置を講じることが望ましいとした。

事実確認が難しい場合や紛争になった場合は、都道府県労働局への相談と調停の申請を使える。指針は、調停の申請などを理由に社員を不利益に扱うことを禁じている。

未確定の点と次に決まる予定

厚生労働省は、2026年9月に改訂したカスハラ対策企業マニュアルに、令和8年度内に企業へのヒアリングの内容を加えて再改訂する予定を示している。指針は、業種や業態に応じた取り組みを進めることを望ましい取り組みに挙げている。

確認先: 厚生労働省 カスハラ防止の指針(告示第51号)、改正法の案内ページ、相談は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)。