公共工事を落札した元請は、着工前に請負代価の4割までを受け取れる。原資は発注者が持ち、保証事業会社の保証を付けることが支払いの条件になる。建設業法24条の3第3項は、前払金を受けた元請に対し、下請へ資材の購入や労働者の募集など着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮を求めている。材料を納める側から見ると、相手が公共工事の前払金を受け取っているかどうかで、材料代の入り方が変わる。
対象になる契約と割合
前金払の範囲と割合は、予算決算及び会計令臨時特例2条3号に基づき、毎年度、国土交通大臣と財務大臣の協議で決まる。令和7年度分は令和7年3月26日付の協議に財務大臣が同月31日に異存なしと回答し、次の内容で実施されている。
| 区分 | 対象になる契約 | 割合 |
|---|---|---|
| 工事 | 1件の請負代価300万円以上の土木建築に関する工事(設計、調査、工事用機械類の製造を除く) | 請負代価の10分の4以内 |
| 設計または調査 | 1件の請負代価300万円以上 | 請負代価の10分の3以内 |
| 測量 | 1件の請負代価200万円以上 | 請負代価の10分の3以内 |
| 機械類の製造 | 契約価格3,000万円以上で納入まで3か月以上を要するもの | 製造代価の10分の3以内 |
前金払をした後に請負代価を減額した場合は、既に払った額を超えない範囲で、工事なら改定請負代価の10分の5以内、設計や調査と測量なら10分の4以内までが認められる。
請負代金額が著しく増額された場合は、増額後の請負代金額に前払金の割合を掛けた額から受領済みの前払金額を差し引いた範囲で、追加の前払金を請求できる(約款35条6項)。中間前払金を既に受けているときは、前払金と中間前払金を合わせた割合(約款の注記の例では10分の6)で計算する。資材価格の高騰で請負代金額が変更された工事では、ここが手元資金の追加になる。追加請求の前には保証契約を変更し、変更後の保証証書を発注者に寄託する(36条1項)。
著しく減額されたときは逆に、受領済みの前払金額が減額後の請負代金額の定められた割合を超える分を、減額の日から30日以内に返還する(35条7項)。超過額が相当の額に達し、前払金の使用状況からみて返還が著しく不適当と認められるときは、発注者と受注者が協議して返還額を定める(同条8項)。期間内に返さないと遅延利息がつく(同条9項)。
地方公共団体の工事は、地方自治法施行令附則7条と同施行規則附則3条が根拠になる。割合の上限とは別に、1件あたりの支払限度額を設けている団体がある。関東地方整備局が令和4年11月1日現在で管内429団体を調べたところ、支払限度額を設定していたのは約107団体、撤廃していたのは約322団体だった。令和7年3月31日付の国不建207号は、限度額を請負代価の10分の4未満としている団体に、撤廃を見据えた見直しを求めている。
前払金を充てられる経費
公共工事標準請負契約約款37条(A)は、前払金の充当先を材料費、労務費、機械器具の賃借料、機械購入費(当該工事で償却される割合に相当する額に限る)、動力費、支払運賃、修繕費、仮設費、労働者災害補償保険料、保証料の10項目に限っている。これ以外の支払いには充てられない。
本則に加えて、ただし書きが現場管理費と一般管理費等のうち当該工事の施工に要する費用への充当を認めている。国土交通省の直轄工事では、ここに充てられる上限が前払金額の100分の25とされている。現場管理費には労働者災害補償保険料が、一般管理費等には保証料が含まれる。この使途拡大は平成28年度に特例として始まり、令和7年度から恒久化された。対象は平成28年4月1日以降に新たに請負契約を締結した工事で、平成28年4月1日から令和7年3月31日までに契約した工事のうち使途を拡大していないものは、発注者と受注者が協議して請負契約を変更すれば拡大できる。
同条2項は中間前払金を別に扱い、このただし書きを置いていない。使途拡大が認められていない工事では、当初の前払金も中間前払金も本則どおりに扱う37条(B)を使う。
| 充当先 | 当初の前払金 | 中間前払金 |
|---|---|---|
| 材料費、労務費ほか本則の10項目 | 充てられる | 充てられる |
| 現場管理費と一般管理費等のうち施工に要する費用 | 前払金額の100分の25まで | 充てられない |
保証事業会社と保証料
前払金の支払いは、公共工事の前払金保証事業に関する法律2条4項の保証事業会社と保証契約を結び、保証証書を発注者に寄託することが条件になる。寄託は、保証事業会社が定めて発注者が認めた電磁的方法に代えられる。発注者は請求を受けた日から14日以内に前払金を支払う。
保証事業会社:国土交通大臣の登録を受けて前払金保証事業を営む会社。北海道建設業信用保証、東日本建設業保証、西日本建設業保証の3社がある。
保証の対象は国や地方公共団体の発注工事に限らない。東日本建設業保証は、都市再生機構や鉄道建設・運輸施設整備支援機構のほか、補助金を受けた社会福祉法人や医療法人、学校法人の発注工事、土地改良区や各種組合の発注工事、PFI事業なども対象に挙げている。
保証の中身は同法2条1項にある。請負者が債務を履行しないために発注者が請負契約を解除したとき、前金払をした額から既済部分に対する代価相当額を控除した額を、請負者に代わって発注者へ支払う。同法27条は保証事業会社に、請負者が前払金を適正に当該公共工事に使用しているかどうかの厳正な監査を義務づけている。
民間工事では建設業法21条が、前金払の定めがあるときに注文者が建設業者へ保証人を立てるよう請求できるとし、保証事業会社の保証に係る工事と政令で定める軽微な工事をその対象から外している。
保証料は保証金額で決まる。東日本建設業保証の料率は次のとおり。
| 前払金保証金額 | 乗数 | 差引金額 |
|---|---|---|
| 300万円以下 | 0.0023 | なし |
| 300万円超1,000万円以下 | 0.0031 | 2,400円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 0.0033 | 4,400円 |
| 5,000万円超 | 0.0035 | 14,400円 |
前払金保証料(100円未満切捨て)は、前払金保証金額に乗数を掛けて差引金額を引いた額。利用実績などにより最大で6%の割引が適用される。中間前払金の保証料率は一律 0.065 %で、中間前払金保証金額に0.00065を掛けて100円未満を切り捨てる。保証金額720万円なら4,680円を切り捨てて4,600円になる。
専用口座からの払出
保証の申込時に出すのは、前払金保証と契約保証の申込書、請負契約書の写し、使途内訳明細書、支払先確認書類。使途内訳明細書は前払金の使途と支払先、支払時期を保証事業会社に届け出る書類で、申込時に支払先が決まっていなければ後日提出でよい。支払先確認書類は下請届、施工体系図、下請契約書、注文請書など、工事名が入ったものを使う。保証金額1,000万円以下は小口保証として手続きが簡便になる。
発注者から振り込まれた前払金は前払金専用口座に入り、そこから払い出す。方法は3通りで、いずれも預託金払出依頼書を添える。
| 払出の方法 | 証明資料 | 条件 |
|---|---|---|
| 総合振込用の支払口座へ振り替える | 総合振込依頼書、またはネット振込データを印刷したもの | 前払金専用口座と支払口座が同一金融機関の同一店舗内にあること |
| 専用口座から支払先の口座へ直接振り込む | 振込依頼書 | なし |
| 自己資金で立替払済みの分を自社口座へ振り替える | 請求書と支払済証明資料(領収書など) | 請求書に工事名または現場名の記載があること |
建材を納める商社の側に効くのは3つめの条件になる。元請が先に自己資金で材料代を払い、後から前払金で埋める形をとるとき、請求書に工事名か現場名が入っていないと元請は払出を受けられない。
中間前払金の支払条件
中間前払金も毎年度の大臣協議で範囲と割合が決まる。令和7年度分は次のとおり。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 1件の請負代価1,000万円以上で、かつ工期150日以上の土木建築に関する工事 |
| 割合 | 請負代価の10分の2以内 |
| 支払の条件(1) | 工期の2分の1を経過し、かつ工程表によりその時期までに実施すべき工事が行われていること |
| 支払の条件(2) | 工事の進捗額が契約額の2分の1以上であること |
北陸地方整備局の資料は、請求の条件を4つに分けて示している。当初の前払金が支出されていること、工期の2分の1を経過していること、工程表により工期の2分の1を経過するまでに実施すべき作業が行われていること、工事の進捗出来高が請負金額の2分の1以上に達していること。当初の4割と合わせると、工期の半ばまでに請負代価の6割までが入る。
請求に出す書類は、中間前払金認定請求書、工事履行報告書、添付書類の3点。添付書類には工事の進捗状況を示した工程表や着手前と現況の工事写真など、発注者が定めるものが入る。部分払と違い、出来高の現場検査は要らない。
標準約款は、中間前金払の規定を含む35条(A)と、含まない35条(B)を並べて示し、発注者がどちらかを選んで使う形をとる。(A)には、受注者の資金需要に適切に対応する観点から使用を推奨する注が付く。
中間前金払と部分払のどちらを使うかは発注者の取扱いによる。埼玉県は選択制とし、受注者が契約締結時に選択書を提出する。途中の変更は申し出られるが、中間前金払か部分払のどちらかを既に受けた後は変更できない。同県の対象工事は請負代金50万円以上(県財務規則62条3項)で、国の直轄工事の1,000万円以上かつ工期150日以上より広い。
契約時に確かめる項目
| 項目 | どこを見るか |
|---|---|
| 支払限度額の有無と額 | 発注者の前金払取扱要綱、入札公告や指名通知の支払条件欄 |
| 中間前金払の対象か | 請負代価1,000万円以上かつ工期150日以上(国の直轄工事の基準。自治体は独自に定める) |
| 中間前金払と部分払のどちらを選ぶか | 契約締結時の選択書。一方を既に受けた後は変更できない取扱いがある |
| 使途拡大の規定が契約に入っているか | 平成28年4月1日から令和7年3月31日までに契約した工事は契約変更が要る場合がある |
| 建材の支払先と支払時期 | 保証申込時の使途内訳明細書。申込時に未定なら後日提出 |
| 立替払分の請求書 | 工事名または現場名の記載 |
前払金と中間前払金を両方使った場合でも、工期の半ばまでに入るのは請負代価の6割まで。残りは完成後の支払いになる。



