元請や施主から建材のCO2排出量を出してほしいと言われたとき、求められている数字は二つに分かれる。相手の会社が自社の排出量として開示するための、取引1件ぶんの排出量。もう一つは、建てる建物の評価に積み上げるための、建材1単位あたりの排出量。前者は環境省と経済産業省の基本ガイドラインの計算式で出せる。後者は製品ごとの宣言書がないと出せない。
サプライチェーン排出量:自社の燃料燃焼による直接排出(Scope1)、購入した電気や熱の使用による間接排出(Scope2)、それ以外の事業活動に関わる排出(Scope3)の合計。Scope3は購入した製品から投資まで15のカテゴリに分かれる。
求められる数字の種類
| 相手の目的 | 求められる数字 | 根拠になる文書 |
|---|---|---|
| 相手の会社のサプライチェーン排出量の開示 | 自社との取引1件ぶんの排出量(製造分と輸送分) | 基本ガイドライン ver.2.8のカテゴリ1、カテゴリ4 |
| 建物のライフサイクルカーボン評価 | 建材1単位あたりの排出量(1トン、1立方メートル、1平方メートル) | 製品ごとのEPD、CFP、国が整備するデフォルト値 |
| 自社のサプライチェーン排出量の算定 | 自社が購入した建材と物流の排出量 | 同じくカテゴリ1、カテゴリ4 |
前の二つで数字が一致しないのは計算違いではない。取引1件ぶんは購入量に原単位を掛けた値で、建材1単位あたりは製品の製造工程を積み上げた値になる。
購入した建材はカテゴリ1で計算する
カテゴリ1の範囲は、自社が購入した製品とサービスの資源採取段階から製造段階までの排出量。原材料や部品だけでなく、仕入れ商品も販売に係る資材も入り、製品の製造に直接関係しない物品を買う間接調達も対象になる。資源採取段階から一次サプライヤーまでの輸送もここに含まれ、一次サプライヤーから自社までの輸送はカテゴリ4に回る。
算定方法は2通り。サプライヤーごとに排出量を把握して積み上げる方法と、購入した物量または金額のデータに原単位を掛ける方法になる。
方法1: CO2排出量 = Σ(サプライヤーごとの排出量)
方法2: CO2排出量 = Σ(購入した製品の物量・金額データ × 排出原単位)
方法1の精度は高い代わりに、相手が排出量を把握していなければ成立しない。方法2は自社の購買データだけで済むが、購買データの分類区分と原単位の区分がどれだけ合っているかで精度が変わる。活動量は物量データが望ましく、取れない場合に金額データを使う。
商社が受け取った数字を渡す側になったときの扱いは、環境省の1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド(Ver1.0、2025年3月)に書かれている。Tier1サプライヤーから提供を受けた排出量データは、受け取った側にとっての1次データにあたる。提供元が排出原単位データベースなどの2次データを使って算定していても、その位置づけは変わらない。上流のどこまで実データで積み上げたかは問われない。
建材の排出原単位
排出原単位データベースの最新版はVer.3.6で、2026年4月に公開された。産業連関表ベースの原単位は2種類あり、表5-1がGLIOの2005年表、表5-2が3EIDの2020年表とGLORIA、普通貿易統計を基に作られた新しい系列になる。以下は表5-2から建材に関係する部門を抜いたもの。
| 部門名 | 物量ベース(t-CO2eq/単位) | 金額ベース(t-CO2eq/百万円) |
|---|---|---|
| セメント | 0.710(t) | 108.6 |
| 生コンクリート | 0.328(立方メートル) | 22.3 |
| セメント製品 | 0.235(t) | 7.96 |
| その他の建設用土石製品 | 0.171(t) | 9.76 |
| 板ガラス・安全ガラス | 0.0103(平方メートル) | 4.96 |
| 製材 | 212.4(千立方メートル) | 3.65 |
| 合板・集成材 | 単価データなし | 3.42 |
| 熱間圧延鋼材 | 1.687(t) | 21.5 |
| めっき鋼材 | 0.931(t) | 8.74 |
| アルミ圧延製品 | 2.113(t) | 4.59 |
| 建設用金属製品 | 1.716(t) | 6.08 |
| 建築用金属製品 | 単価データなし | 3.95 |
| 塗料 | 2.305(t) | 5.72 |
金額ベースの原単位には条件が2つ付く。データベースの価格には消費税10%が含まれるため、税抜の取引額をそのまま掛ければ1割ぶん小さく出る。もう1つは時点で、2020年の価格水準に対応する原単位になる。データベースは時間的適合性の観点から、デフレータなどで物価変動の影響を減らすことも有効としている。
物量ベースの原単位が空欄の部門は、産業連関表の付帯表に単価データが無く物量換算できなかったもの。この場合は金額ベースの原単位を使う。
輸送はカテゴリ4に入る
カテゴリ4の範囲は、購入した製品のサプライヤーから自社への物流と、それ以外に自社が費用負担している物流。自社の車両で運んだぶんは自家物流としてScope1かScope2で拾うので、ここからは外れる。物流センターや荷捌き場のような通過型の拠点での荷役と保管は、算定対象外としても構わない。
商社が間に入る取引の切り分けもガイドラインに書かれている。仲介業者が商取引を仲介していても、物流としては製造者から直接手配して引き取っている場合は、製造者からの輸送を算定対象に含める。製品を購入し、かつその物流を発注している場合は、両者のうち広い方が範囲になる。届け先までの物流を発荷主が費用負担して発注する日本の商慣行では、出荷側の物流も多くがこのカテゴリに入る。自社が費用を負担していない出荷側の輸送は、下流のカテゴリ9に回る。
国内輸送の算定式は、温対法の特定荷主の算定方法をそのまま使う。
燃料法: CO2排出量 = Σ(燃料使用量 × 排出原単位)
燃費法: CO2排出量 = Σ(輸送距離 ÷ 燃費 × 排出原単位)
トンキロ法(トラック):
CO2排出量 = Σ(輸送トンキロ × トンキロ法燃料使用原単位 × 排出原単位)
トンキロ法(鉄道、船舶、航空):
CO2排出量 = 輸送トンキロ × 輸送機関別排出原単位
輸送トンキロ = 貨物重量(t) × 輸送距離(km)
トラックのトンキロ法燃料使用原単位は、燃料の種類と最大積載量、積載率から決まる。軽油で最大積載量4,000キログラム以上6,000キログラム未満の事業用車なら、2025年基準達成車が1トンキロあたり0.0961リットル、いずれの基準にも該当しない「その他」の区分が0.125リットル。積載率が分からないときは最大積載量別のみなし積載率を使い、この区分では事業用0.38、自家用0.29が置かれている。軽油の排出原単位は1キロリットルあたり2.619トンCO2になる。
トラック以外は輸送トンキロに機関別の原単位を掛けるだけで済む。
| 輸送機関 | CO2排出原単位(gCO2/トンキロ) |
|---|---|
| 鉄道 | 22 |
| 船舶(1990年から2010年建造船の船種別平均燃費比で20%以上の燃費向上) | 31 |
| 船舶(同じく15%以上20%未満) | 33 |
| 船舶(同じく10%以上15%未満) | 35 |
| 船舶(同じく5%以上10%未満) | 37 |
| 船舶(同じく0%以上5%未満) | 38 |
| その他の船舶 | 39 |
| 航空 | 1490 |
帰り便の空輸送は、輸送事業者と車建て(荷物当たりではなく車当たりでの輸送)で期間単位の契約をしている場合と、車建てで区間ごとの契約でも契約形態から見て他者の貨物輸送が実質的に不可能な場合に、所有権がなくても算定対象になる。トンキロ法ではこの帰り便を算定できないので、当てはまる輸送は燃料法か燃費法で組むことになる。
燃料使用量も輸送距離も分からない取引が残る。その場合は輸送シナリオで置く。ガイドラインが例示するのはカーボンフットプリント試行事業の原材料輸送シナリオで、国内輸送は10トントラックで500キロメートルの片道輸送、積載率50%。国際輸送はその前後の陸運に、8万重量トン以下のバルク運送船による海運を足す。ガイドラインはシナリオ設定にあたり、調達先との位置関係や自社の物流拠点への入荷時の車両の種類から見て過小評価にならないことの確認を求めている。
製品1単位あたりの数字が要るとき
建物のライフサイクルカーボン評価に入れる数字は、購入額に原単位を掛けても出ない。国土交通省の中間とりまとめは、建材と設備の単位あたりCO2排出量として使えるデータに優先順位を付けている。
| 順位 | データ | 中身 |
|---|---|---|
| 1 | EPD | PCRに沿って算定し外部レビューを受けた製品環境宣言。ISO 21930の要件に準拠 |
| 2 | CFP(第三者レビューあり) | カーボンフットプリントガイドラインに準拠した製品単位の排出量 |
| 3 | CFP(第三者レビューなし) | 同上でレビューを経ていないもの |
| 4 | 国が整備するデフォルト値 | 上の3つが無い製品カテゴリー向け |
データの作り手は個社と業界団体に分かれる。個社製品データは施工時など建材の調達後に使い、業界代表データは基本設計や実施設計の段階、あるいは個社データが無いときに使う。業界代表データは業界平均値とすることが原則で、更新は少なくとも5年ごとが望ましいとされている。
EPDを取る枠組みは既にある。SuMPO環境ラベルプログラムはISO 14025に準拠したEPDプログラムで、2002年のエコリーフ環境ラベルから20年以上続く。製品群ごとにPCR(製品カテゴリールール)というLCAの共通算定ルールを策定し、それに沿って算定した結果に第三者検証をかける仕組みになっている。建設物価調査会が2026年4月末時点でまとめた登録一覧では、異形棒鋼やH形鋼などの建設用鉄鋼製品、レディーミクストコンクリート、JAS構造用集成材とCLT、フローリング、タイルカーペット、ビニル系床材、板ガラス、窓とサッシ、せっこうボード、建築用断熱材のカテゴリーで取得製品が並ぶ。
制度が始まる時期
2025年4月の関係省庁連絡会議の基本構想で、2028年度を目途に建築物のライフサイクルカーボン評価の実施を促す制度を開始する方針が決まった。中間とりまとめが挙げる措置の例は、2,000平方メートル以上の非住宅建築物の新築での建築士から建築主への説明制度と、5,000平方メートル以上の事務所の新築などでの建築主による国への届出制度。評価結果の第三者認証と表示制度も並ぶ。法律の側は2026年7月24日に成立した改正で手当てされた(改正建築物省エネ法が成立)。
建材側の整備目標も同じ表に入っている。積み上げ型のEPDとCFPによる業界代表データと個社データは、主要建材について2027年度までに整備するとされ、それ以外は国が定めるデフォルト値で埋める。有価証券報告書のサステナビリティ情報開示では、大手不動産事業者を含む時価総額3兆円以上の上場企業に、遅くとも2028年からScope3開示を求める方向で検討が進む。開示する側は自社の購入分をカテゴリ1で算定するので、その調達先にデータ提供の依頼が回る。
海外の日程はもう少し早い。EUは2024年4月に改正された建築物のエネルギー性能指令で、2028年から1,000平方メートル超の新築建築物、2030年から全ての新築建築物にライフサイクルカーボンの算定と公表を義務づける予定になっている。
依頼が来たときに確認する順番
| # | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 相手の目的が自社の排出量開示か、建物のライフサイクルカーボン評価か |
| 2 | 求められている単位が取引1件ぶんか、建材1単位あたりか |
| 3 | 製造分だけか、輸送分(カテゴリ4)まで含むか |
| 4 | 物量データを出せるか、金額データしか無いか |
| 5 | 金額で出すなら、消費税込みの価格に原単位が対応していることと2020年基準であること |
| 6 | 輸送は燃料法、燃費法、トンキロ法のどれで組むか。帰り便を含むならトンキロ法は使えない |
| 7 | 製品単位の数字なら、該当製品にEPDかCFPがあるか。無ければPCRの有無 |
| 8 | 使った原単位のバージョンと出典を、渡す数字に添えたか |



